愛しているとか好きだとか
彼が好き。 一度も「好き」とは言ってくれないけど。 素直じゃないのは、きっと恥ずかしいから。 すぐ真っ赤になる頬が、それを証明しているよ。
「俺のこと、どう思ってんだよ!?」 いくら温厚な俺でも限界はあるわけで。 「うっせーな。なんだよ急に」 久々にふたりっきりになれて、いい雰囲気なのに! 俺が「好きだよ」って言って「倫は?」って訊いたら普通、恋人なんだ から「うん。俺も」くらい言えるんじゃないか?? 「俺はおまえのこと好きだって言った。でもおまえは俺のことどう思ってん のか言ってない。なんで俺とキスしたり抱き合ったりできんだよ? なあ、 俺のこと……好きか?」 俺の真剣な問いに、倫は顔を背けた。 「別にどうでもいいだろ!? 俺とキスしたい、って言ったのはおまえじゃ ねえか」 「そうだけど!! でも俺は倫が嫌がることはしたくない」 背けた顔を覗き込み真剣に気持ちを伝える。 「なあ…俺、不安なんだよ……。俺は倫がすっげえ好きだ。何回も言った よな? でもおまえは?」 つきあってる。確かに恋人のはず。 でも気持ちを伝えるのはいつも俺だけで。 告白したときもそうだった。
「ごめん。ずっと友達面しながらおまえのこと、いやらしい眼で見てた」 我慢できなかった。 一生言わないつもりでいたのに。 「俺、倫が好きだ」 まっすぐに倫の瞳を見つめながら言う。 その瞳には驚愕。しかし嫌悪は見つけられなかった。 「俺のこと、嫌いになった? ……嫌いじゃなかったら、俺とつきあって、 くれる?」 好きなら、とは言わなかった。 徐々に好きになってくれればいいと思ったから。 「いいよ」 と下を向いた倫が呟いた。
それから3ヶ月。 倫を抱きしめて、好きだと囁き、キスをする。 いつか好きになって、と想いを込めて。 「なあ、倫? 俺、不安なんだよ」 つきあってからだって、キスをするようになったって。 「同情……っていうか、告白されて、今の関係壊したくないから……友達 失いたくないから……だから俺とつきあってくれたのかも……って」 いつも瞳を逸らす倫が恥ずかしがってるなんて、そんなの俺の勝手な 望みだっただけで。 「いつ飽きられるか、って」 俺は男で、倫だって立派な男で。 気味悪がられなかったのが奇跡だってわかっていても。 「つきあってくれるだけでいいとも思ったよ? でも、どんどん欲張りになるんだ。 笑って欲しい。そばにいて欲しい。好きになって欲しい。 好きって言って欲しい。誰にも、渡したくない……」 最初は自分の恋人でいてくれるだけで死んでもいいくらい幸せだった のに。 不安がまとわりついて離れない。 いつか倫を好きだという可愛い女の子が現れたら…… 「もう、無理強いはしない」 「えっ?」 「別れようか……」 それを倫が望むなら。 それが倫のためならば。 俺を見上げたまま表情の変わらない倫。 「ごめんな。本当に倫が好きだったよ。今でも……」 そっと倫の手に触れる。 俺を見上げる倫の瞳には、情けない俺が映ってる。 少しでも俺の手を握り返してくれるなら。 少しでも涙を見せてくれるなら。 少しでも俺を想ってくれるなら。 こんな別れ話、すぐにでも取り消すのに…… 「一度でいい……抱かせて、くれないか……?」 それが目的だったわけじゃない。 ただ、最後だと思ったら…… このまま別れるのはつらいから。 倫がちいさく頷いた。 それが同情だったのか、そんなこと、今は考えたくなかった。 「ベッドへ行こう」 嫌がるかな? とも思ったけど、俺は倫をそっと抱き上げた。
倫をそっとベッドに横倒し、震える手を握り、キスをした。 「好きだよ」 耳元に囁いて、そのままそっと唇を寄せる。 「愛してる」 唇を首筋に移動させながら囁く。 「離したくない」 顎に頬にキスを降らせる。 額に瞼に鼻先に。そして、唇に―――… はじめは触れるだけの優しくて甘いくちづけ。
「好き……」 今のは俺じゃない。 大好きな、いつもより甘みを増した声が呟いた。 「離さないで」 倫の瞳から綺麗な雫が零れ落ちる。 「ずっと……そばにいて……」 「倫……?」 倫を覗き込むように見つめる。 今のは俺の幻聴じゃないよね? 倫は必死に涙の潤む瞳で俺を見上げている。 俺はそっと倫の頬に手を伸ばす。 「泣かないで」 倫はえっ? って表情をしてから瞬きをする。 「好きだよ」 そう言って、瞼に、頬に涙を辿って唇を寄せる。 首筋に真紅の痕を残し、シャツのボタンをひとつずつ外す。 徐々に現れてくる白い肌に震える手をどうすることもできずに。 薄い胸板にキスマークを残す。 そのたびに倫はちいさな声を上げ、躯を反らす。 「いやだぁ……」 紅い突起に唇を寄せると涙を零しながら甘い声で倫が言う。 思わず手が止まる。 さっき好きだと言ったこの口で、俺を拒む倫。 やはり男が男に抱かれることに抵抗があるのだろうか? 「嫌いに、ならないでぇ……」 この一言で俺の機能が停止したのはしょうがないことだと思う。 「ずっと……好きで、いて……」 自分で頬が緩むのがわかる。 「ずっと……好きだからっ……!」 ああ、なんて可愛いんだろう!! はじめてだし、倫に負担かけないように我慢しようと思ってたのに!! こんな可愛いこと言われて、我慢できる男がいると思う?? おまえが悪いんだからな。 心の中で呟き、動きを再開する。
生まれたままの倫の姿に見惚れつつ、自分も我慢できずにすべてを 脱ぐ。 触れる肌が熱い。 いつもより甘い倫の声。 潤んだ瞳。 触れるたびに敏感なほど反応する躯。 身体中にキスマークをつけた蠱惑的な姿。 喘ぎながら俺の名前を呼ぶ倫。 すべてが愛しくて、高校生の俺が我慢できるほどの余裕などあるはず もなく。 はじめて男に抱かれるという倫を性急に追い立てる。 躯中余すところなくキスをして、紅く実った胸の突起に舌を絡ませる。 甘く噛み、吸いなぶり、もう片方も指先で弄ぶ。 それだけで、倫は切なげな甘い声を上げ、俺の余裕をなくす。 男同士でどうやるか、は倫に惚れて勉強した。 しかし今日は、突然のことで何の準備もしていない。 この部屋に何か代わりになるようなものもなく、かといって倫をおいて 探しに行くわけにもいかない。 大丈夫だろうか? と不安に思いつつ倫のそこに舌を這わせる。 「あっ!」 倫が悲鳴のような小さな叫びを上げる。 「ま……さ、つぐぅ……」 刺激を与えながら、たっぷりと濡らしていると、倫に変化が顕れた。 指先が白くなるほどシーツをぎゅっと掴む手。 自然と揺れる腰。 こんな姿を見せられて我慢できるほど俺も大人じゃない。 倫の内に入っていた指を抜き、熱く猛った俺のものを押し当てる。 はじめての感覚に逃げようとする倫を押さえつけ、焦らずゆっくりと腰を 進める。 それでも痛みはあるのか、つらそうな表情をする倫。 しかしそれさえも俺を煽る材料としかならない。 顔中にキスを降らせ、大丈夫だよ、好きだよ、と囁き、倫のものに手を 添え、ゆるゆると動かす。 苦痛の中に快感を見つけ出したのか、倫はすこしだけ微笑んだ。 「大丈夫?」 やっとすべてをおさめた頃、動き出したい衝動を必死に抑えつつそう 訊くと、 「好き」 と眉根を寄せて倫が微笑う。 下半身直撃のこの言葉に俺の理性が吹っ飛んだ。 「ごめん」 俺はそう言って、思いっきり腰を使う。 「やっ……まっ……!」 そのまま倫が気絶するまで、俺は倫を味わった。
倫が気を失っているとわかったとき、最初に感じたのは自己嫌悪。 しかしいつまでもそうしているわけにはいかない。 どうやらそのまま眠ってしまったらしい倫にほっとしつつ、濡れタオルを 用意しに階下に急ぐ。 本当は風呂に入ったほうがいいんだろうけれど、いくら家族旅行中で 誰もいないからといって裸の倫を抱いていくのは抵抗がある。 洗面器に入ったぬるま湯とタオルを用意し、倫の躰を拭いていく。 汗と涙と、倫と俺の放ったもの。 その姿がいつもの倫からは考えられないほど淫らで、俺のものが反応 するがなんとかそれを無視する。 自分の本能に打ち勝ち倫にパジャマを着せ終え、自分もパジャマを 着ると(よく泊まりに来る俺に倫のお母さんが用意してくれたもので、 もちろん倫とお揃いだ)倫を抱きしめて目を閉じた。 目が覚めたら倫はなんて言うだろう?
「んっ……」 目が覚めていつもと違う感覚にたじろぐ。 腕の中には倫。 数秒停止し、昨日のことを思い出す。 俺はニヤける頬を抑えつつ、倫を起こさないようにベッドから出た。 顔を洗いキッチンへ向かう。 結局昨日の夕食も食いはぐれてしまった。 簡単に朝食を作ることにし、冷蔵庫を開ける。 卵もあるし、ソーセージも。あっ、野菜もいるな。 まっ、こんなもんでしょ? 鼻歌なんて歌いながら朝食を整え、倫を起こしに階段を上がっていると 俺を呼ぶ倫の声が聞こえた。 起きてたのか、なんて暢気なことを考えて扉を開くと、子供のように 泣きじゃくっている倫。 「倫?」 しかもベッドから落ちてるし。 「どうした? 怖い夢でも見たか?」 そう言って俺は倫を抱き上げ、ベッドに座らせる。 「どうした?」 倫の髪を優しく撫でる。 「なんで……?」 「ん?」 涙を流す倫の瞼に、頬にキスをする。 「ねえ、俺のこと、好き?」 「好きだよ」 涙声の倫の問い。 そんなことを不安がっていたの? 「俺も好きだよ」 そう言って上目遣いに俺を見る倫。 はじめて聞いた告白。 驚いた。 正気のときに言ってくれるとは思ってなかったから。 「知ってるよ」 俺はそう言うと、倫の額にそっと唇を寄せ、涙の残る瞼に頬に唇を移動 させ、確かめるようにそっとキスをした。 「愛してる」 そう言って微笑うと倫は泣き笑いみたいな表情になった。
「大好き」
そして倫はそう言うとはじめて自分から俺にキスをくれた。 そりゃあさ、朝飯も作ったし、昨日無理させたし、って考えなかったわけ じゃないよ? でもそんな可愛いカオでそんなセリフ言われちゃ、治まり つかないでしょ? そしてその日いちにち俺と倫はベッドで過ごすことになる。 |