大キライ!!

 

「そ……そんなぁ……」

 そう言うと少年は形のいい眉の根を寄せ、困ったような表情をした。

 年の頃は17、8だろうか。

 少し幼く見えるが、綺麗な顔立ちをしている。

 浅黒い健康そうな肌とそれによく似合う金の髪が額にかかりサラサラと

揺れる様が、少年をより活動的に見せている。

「毎日毎日無償で人助けばかりしやがって。こっちも生活かかってんだ。

おまえだって困るだろ? 住む処がなくなるのは。

……なあ、アンパンマン?」

 男はそう言うと、少年――アンパンマンに問い掛けるような視線を向け、

白衣のポケットにしまってあった煙草を取り出し火をつけた。

 そう言われてしまったら返す言葉がない。

 人助けばかりして金を稼いでこないのも事実だし、ここに居候している

のも……

「で……でも、ジャムおじさん―――」

 アンパンマンの言葉を遮るように男――ジャムおじさんんはアンパンマン

に向かって白い煙を吐いた。

「ケホッ、ケホッ」

 今時の子にしては珍しく、アンパンマンが煙草の煙で咽ると、次の言葉を

出す前にジャムおじさんが口を開いた。

「そろそろ迎えに来る頃じゃないか? こんな小僧のどこがいいんだか。

あの男、随分おまえにご執心のようだな? まあせいぜい可愛がって

もらえ」

 ジャムおじさんがそう言いながらアンパンマンの顎に手をかけると、大きな

音を立てて扉が開いた。

「そいつは俺様のモンだろうが」

 そう言いながら入ってきた男は、長身で、まっすぐな漆黒の髪をひとつに

束ねたいい男だった。

 歳はアンパンマンよりも幾分上だろうか。

 細身だが、決してひょろりと弱そうなわけではない。

「気安く触るんじゃねえよ」

 男がそう言いながら、ジャムおじさんの手をアンパンマンから払いのける

と、ジャムおじさんはふんと身を翻し、アンパンマンから離れた。

「早かったじゃないか、ばいきんまん。おまえが時間を守るなんてな」

 珍しいこともあるもんだ。ジャムおじさんがそう言うと、男――ばいきんまん

はふっと微笑し、少年を見つめた。

「やっと手に入ったんだからな……」

 ばいきんまんはそう言うと、アンパンマンを抱き上げ、ジャムおじさんに袋を

投げた。

「ちょっ、ばいきんまん! なにすんだよ!?」

 嫌がるアンパンマンを無視し、ばいきんまんはジャムおじさんに向かい口を

開く。

「約束の金だ。それだけあれば充分だろう? こいつは貰っていく」

「なに勝手なこと言ってんだよ!!」

 じたばたとアンパンマンが暴れるとばいきんまんはその唇を自分のそれで

塞ぎ、黙らせた。

「んっ……ふぅ」

 アンパンマンはそれでも抵抗を試みるが、呆気なく失敗に終わり、くてっと

力の抜けた躯をばいきんまんの腕の中へと収めた。

 ばいきんまんは唇を離し、その姿を満足そうに見つめると、サラサラと額に

かかる綺麗な髪を掻き上げ、形のいい額に唇を寄せた。

 その一部始終を見ていたジャムおじさんは溜め息をつく。

「やれやれ、あんな小僧のどこがいいんだか」

 

 

 

 

 

 さっそく城にお持ち帰りされたアンパンマンは、抗議の声を聞き入れて

もらえるはずもなく、ばいきんまんの部屋へと連れていかれた。

「ちょっ……! 離せ! 降ろせよ!!」

 いい加減降ろせ! アンパンマンがそう言ってばいきんまんを睨むと、

ばいきんまんはアンパンマンをベッドへ横たわらせた。

 アンパンマンはばいきんまんの手から逃れると、ベッドから起き上がり、

外へ出ようとする。

 しかし、当然のようにばいきんまんに阻止され、アンパンマンはベッドへ

寝かされ、上から被さるようにばいきんまんの体温を感じることとなった。

「綺麗な髪だな」

 自分よりも躯の大きいばいきんまんに対しての抵抗を無駄だと諦め、

しかし睨みつけるようにばいきんまんを見つめるアンパンマンの視線を

受けながらばいきんまんはアンパンマンの髪をサラサラと梳かした。

 アンパンマンはその幸せそうな表情を見ないように、睨みつけていた視線

をばいきんまんから逸らす。

 そのうち髪を梳かしていた手が頬へ移り、唇へと移っていく。

「緊張しているのか?」

 アンパンマンの乾いた唇に触れながらばいきんまんが揶揄うようにそう

言うと、アンパンマンはキッとばいきんまんを睨みつけた。

「なんだよ!? あんたが俺のこと嫌ってるのは知ってるよ。俺が毎日、

あんたを追いかけ回すから……。でも他人に迷惑かけるあんたが悪い

んだろ? なのに……なんで、こんなことすんだよ……?」

 ばいきんまんに向けていた睨むような視線を困惑の表情に変え、アンパン

マンは押し黙った。

「俺様に嫌われるのが、そんなに辛いのか?」

 ばいきんまんは薄い唇に微笑を浮かべ、可愛いヤツだな、と呟いた。

「なに言ってんだよ!? そんなんじゃねえよ!!」

 アンパンマンがそう言って視線を逸らすと、ばいきんまんはその視線を

戻し、アンパンマンの瞳を覗き込んだ。

「本当に鈍感だな。俺様のことが好きなんだろう?」

「なっ!?」

 なに言ってんだよ、と言おうとしてその唇をばいきんまんに塞がれた。

 開きかけた口にばいきんまんの舌が入り込んでくる。

 このまま舌を噛み切ってやろうかと思ったが、しっかりと顎を掴むばいきん

まんの手に抵抗できず、為すがままにばいきんまんを受け入れた。

 やめろよ、気持ちわりぃ。そう思いながらも躯から力が抜け、火照ってきて

いるのがわかる。

「んっ、んっ……ふっ」

 ばいきんまんは抵抗を諦め、快感に溺れるアンパンマンを満足そうに

見つめ唇を離した。

「キスだけでそんなに感じるのか?」

 ばいきんまんは意地悪そうにそう言うと、アンパンマンのシャツに手を

伸ばした。

「や、めろ……よ……」

 声にならない声でアンパンマンが言う。

 それを聞いてばいきんまんがゾクゾクと身震いをする。

 ひとつひとつシャツのボタンをゆっくりと外そうとしていたが、焦れったく

なってシャツのを引き千切る。

 アンパンマンの浅黒い肌が露わになる。

 自分よりも華奢な躯。薄い胸板。細い腰。

「俺のこと、嫌いなくせに……」

 ばいきんまんがジーンズを脱がそうとボタンに手をかけたとき、今まで躯に

力が入れられず、とろんとした表情でばいきんまんを見つめていたアンパン

マンが急に涙声でそう言った。

「?」

 ばいきんまんは何を言うのかと、少し首を傾げ、アンパンマンを見つめる。

「そんなに……そんなに、俺のこと、嫌いなら、無視すりゃいいじゃん。

なんで……なんで、こんなこと……」

 視線を逸らし、今にも泣き出しそうなアンパンマンを見つめ、ばいきんまん

はふっと微笑を洩らした。

「本当に鈍感だな」

 可愛いヤツだ。そっと呟いてアンパンマンの瞼にキスをする。

「誰があんな大金出して嫌いな奴を買ったりする?

 誰が嫌いな奴にこんなに優しくするっていうんだ?」

 ばいきんまんの口から出た“優しい”という言葉にアンパンマンは目を丸く

する。

 優しい!? この揶揄うような瞳が、微笑が優しいだって?

「俺を追ってくるおまえに、いつも欲情してたんだ」

 ばいきんまんはそう言うと、恥ずかしそうに身を捩り、全身を染める

アンパンマンの熱い耳にそっと唇を寄せた。

「んっ……」

 綺麗な耳の形に沿ってばいきんまんが舌を這わせる。

 その快感に堪え切れずアンパンマンは甘い吐息を洩らし、ばいきんまんを

不本意ながら誘惑した。

「逃げないんだな」

 汗ばんだ肌にばいきんまんの手が焦れったいほどゆっくり這い回る。

 アンパンマンはきつく目を瞑り、下唇を噛んで堪えるようにシーツをギュッと

握りしめた。

 逃げないんじゃない。逃げれないんだ。

 そのことを知っているくせに。

 ばいきんまんに怒りを覚えながらも、きつく結んだ唇からは堪え切れず

吐息が洩れる。

「やぁ……ふっ、んっ」

「随分よさそうだな」

 ばいきんまんが耳元でそう囁く。

「ちがっ、もう……やぁ」

 耳元で囁かれるばいきんまんの低い声にさえ感じている自分が許せなく

なる。

 そんなアンパンマンを無視し、ばいきんまんは囁いた唇を項へと這わ

せた。

 首筋に優しくキスを落とし、舌を這わせ、鎖骨に歯を立てる。胸を舐め、

甘く噛み、吸い上げる。

 ばいきんまんの舌がいやらしく躯の隅々まで這う。

 まるで自分の感じるところを知り尽くしているかのようなその動きにアン

パンマンは抵抗を諦めた。

 やっと大人しくなったアンパンマンを満足そうに見つめ、ばいきんまんは

手を止めた。

「?」

 中途半端なままの状態でおあずけを食らったアンパンマンは強請るような

瞳でばいきんまんを見上げる。

 ばいきんまんはその瞳を微笑しながら見つめると、どこから取り出した

のか、小さなビンを嬉々として開けた。

「なっ……なに……!?」

 アンパンマンは反射的に腰を引き、逃げようとする。

 しかしばいきんまんはそれを許さず、片手で軽々とアンパンマンの腰を

押さえつけ、キスで思考を奪う。

「んっ……ふぅ……」

 大人しくなったアンパンマンに行為を再開する。

 初心者と思われるアンパンマンに気を遣っている余裕はなかった。

 ずっと欲しいと思っていた彼が自分の腕の中にいることが嬉しくて、ただ

ただ夢中で彼を貪った。

 

 

 

 

 

 ぐったりとしたアンパンマンを見つめ、満足そうにしているのはばいきん

まんだ。

「ほら、言えよ」

 疲れきったアンパンマンにばいきんまんは意地悪く微笑う。

「俺様に嫌われるのが辛いんだろ? どうなんだ?」

 何の話かとダルイ躯をそのままに視線だけばいきんまんへ向ける。

「俺様が好きなんだろう?」

 途端顔を真っ赤にしてアンパンマンはばいきんまんから離れた。

 

「大ッキライ!!」

 

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