「美弥、」

 何度も呼ばれ、暗闇から浮上する。

 瞳を開けばそこには理由が。

「どうして、」

 自分でも驚くほどかすれた声に。

「どうして?」

 彼は涙に濡れた頬を拭うことなくあたしを見つめる。

「生きると言ったじゃないか。僕と一緒にいると。僕の為に生きると」

 ああ、この人は。

 あたしの為に泣いている。

「死なないでくれ。ずっと一緒にいて欲しい」

「じゃあ、言って」

 あたしだけだと。

 あたしを愛していると。必要だと。

 あたしにもそうであってくれと。

 浮気などせずに、自分だけを見ろと。

「言って、」

「愛してるんだ。君がいなくちゃ僕だって生きてはいけない。一生僕のそばにいて。

一生僕だけ愛してて」

 死なないでくれ。

 懇願するように言われ、躰が震えた。

 愛してる、愛してる。愛してる。

 でも、それだけじゃ足らなくて。

「死なないわ。だってあなたが生きているもの。あなたがくれたのでしょう? 生きる

理由を。あたしのすべてはあなたのもの」

 あなたにもそう思って欲しかった。

 叱って欲しかったの。

 君は僕だけのものだろう、って。

 他の男を見る余裕があるのなら、もっと自分を見て欲しいって。

 あたしと同じように。

 あなたにも、あたしを縛って欲しかった。

「愛してる、愛してるんだ」

 何度もそう言う唇に指先を伸ばす。

 もっと、ずっと、一生、あたしの為にそう言い続けて。

「愛してる」

 はじめて声に出してそう言えば。

 彼は気遣うようにあたしをそっと抱きしめる。

「愛してる」

 あなたが想うより強い気持ちで。

「愛してる」

 こんな言葉じゃ足らないほどに。

「愛してる」

 あたしの言葉を遮るように。

「早く僕と同じくらい僕を想って」

 あなたが言うから。

「一生あたしと同じくらいあたしを想って」

 

 

 

 

 

 あなたとだから世界が輝く。

 絶対も永遠も。

 一生も君だけも。

 あなたじゃなくちゃ意味がない。

 ねえ、あなたもそうなのでしょう?