爆弾

 

「なあ、お前やったら知ってるやろ?」

親友の御咲を教室に待たせて委員会に出席した俺に、隣りでこそこそ

喋っていた秋山と畑中が唐突に俺を振り返った。

「何が?」

前で委員長が一所懸命話してんねんから、聞いたれやー思いながら、

とりあえず俺は耳を傾ける。

すると爆弾発言が降ってきた。

あの・・千羽せんばの、好きな奴って誰?」

………何やそれ。

俺、知らんで?

数秒固まった俺に、秋山が「あー、こいつ知らんわ」って言うたのが聞こえ

て、余計腹立った。

何であいつはそない大事なことを親友の俺に言わへんねん!!

俺は委員会が終わると猛ダッシュで教室に戻った。

俺の親友、千羽御咲を問いただすために。

「御咲ぃぃぃぃ!!!!」

勢いよく教室に駆け込んできた俺に、当の御咲は読んでいた漫画雑誌から

顔上げて目を丸くした。

「何や佑、えらいおっかない顔して」

そらそうやろ、怖い顔にもなるわい。

「お前、好きな奴おるってホンマか?!」

質問には答えず、俺は単刀直入に切り出した。

御咲は、呆れたような顔をしただけだ。

それが余計むかつくっちゅーねん。

「お前それさっき聞いたん?」

「そーや、委員会で一緒になった秋山とか畑中とかが、俺に言いよった

んや」

その屈辱が俺に分かるか?

分からんやろーけど、分かれ!

俺が睨むと、御咲は全然気づいてないように溜め息まで吐いた。

「鈍い鈍い思うてたけど、ここまでとはなぁ」

それは俺がすでに知ってると思ってたってことか?

んなもん…分かるわけあるかい!

「おるんか?!俺聞いてへんで!!」

「…だって言うてへんし」

御咲は恨めしそうに俺を上目遣いに見上げた。

何やねん、そんな目しても隠してたことは許したらんで。

けどまあ、一番に知る権利は俺にあるやんな。

親友やねんから。

「なあ、誰なん?メッチャ気になる」

顔が緩むのを自覚しつつ、俺は嬉々として御咲を追い詰めにかかる。

こいつがもてるの知ってるし、昨日も女の子に呼び出されてたのも知ってた

けど、こいつはいっつも興味ないって顔してたから、好きな奴なんて思いつき

もせんかった。

でも、こいつが好きになる奴って、誰なんやろ。

しばらくすると、観念したのか御咲はぽつぽつと白状し始めた。

「小さくてな」

「うん」

小さい言うたら………。

「メッチャ気ぃ強いねんけど」

「うん?」

あれ?

小さくて気ぃ強いコなんて誰かおったっけ?

「笑った顔がメッチャかわええコ」

笑った顔がかわええコなんかいっぱいおるしなあ。

誰やろ。

「へえ、お前ってそんなコが好きなん」

とにかく確認すると「そう」と素っ気ない返事。

「そんなコ知ってるかなあ」

とにかくそれだけのヒントで該当する人物を思い浮かべる。

同じクラスの川上さんは、小さいけど小ささに比例して大人しいしなあ。

大体他のコも大人しいと思うし…。

それに御咲の前で気ぃ強いとこさらす勇気あるコっておるんかな?

こいつ、親友の俺かて認める男前やもんな。

ちらっと横目で見ると、窓の外なんか眺めて黄昏てるし。

それがまた絵になってるとこが憎いとこやで。

んー、一体誰や。

下級生にまで手ぇ回らんで、俺。

「…ん〜?全っ然分からん!御咲、俺の知ってるコなん?」

降参した俺に、御咲は含みのある笑顔で答えた。

「………ああ」

ちょお待て、尚更分からんわ。

誰やねんそれ、俺絶対知らん。

「降参や!御咲、教えてえな」

「しゃあないなあ…」

本日二度目の爆弾発言まで、5秒前。

 

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