誕生日

 

たくさんの人が「おめでとう」と言ってくれる中で、彼だけがまるで無関心に

本を読んでいる。

本当は、彼に一番言って欲しいのに。

「あいつ、何でああなんだろうな」

僕を囲んでいた一人が、僕の視線に気づいて不満げに言った。

聞こえよがしに。

初めて気づいたみたいに、彼が顔を上げた。

目が合うと、眉をしかめられてしまった。

がっくり。

「マリちゃん、落ち込むなよ〜」

「そうそう、あんな奴のこと気にすることないって」

そんなこと言われても、気になるよ。

だって彼は特別だから。

「花村先生、だろ。馴れ馴れしく呼ぶなよ」

「んだよ、うっせーな」

「うるさいのはお前らだ」

「ああ?!」

「や、やめてよケンカは」

「う。…ちっ、マリちゃんのお陰で命拾いしたな」

「ふん、どっちが」

折角の和やかムードがすっかり険悪になってしまった。

「じゃ、授業始めようか…」

 

 

放課後。

準備室のドアを叩く音。

「はい、どーぞー」

「失礼します。…誰もいないのか?」

「うん、鍵かけて」

「わかった」

入ってきたのはもちろん彼だ。

真理しんり、さっきは…ゴメン」

「気にしてないよ」

「本当か?」

「もちろん」

彼がほっとした顔をする。

僕にしか見せない顔。

「何が面白くなかったの?」

「別に大したことじゃない」

「嘘」

立っている彼を、座ったまま見上げると、彼は微かに顔を赤くした。

「…また10歳差だ」

「仕方ないよそれは。君は3月、僕は4月生まれだもん」

そんなこと分かってると言わんばかりに顔を背けられる。

体は立派、頭だって悪くないのに、子供みたいで可愛い。

なんて言ったらますます拗ねるだろうから、言わないけど。

その代わりに。

「ねぇ、僕まだ言ってもらってないよ?」

「え?」

「君に一番言って欲しい言葉」

「あー、ゴメン。そうだった」

やっと思い出したように、彼は僕にとても優しい笑顔を向けた。

「真理、生まれてきてくれてありがとう」

 

頂き物