それでもやっぱり君が好き

 

 俺には可愛い可愛い恋人がいた。

 去年お互いの気持ちを確認しあって恋人になった可愛かった恋人。

 そう、可愛かった恋人はいつのまにかイイオトコに成長しやがった。

 

 

 

「しーずくー」

 語尾にハートマークがついてそうな声で俺を呼び、背後から抱きしめる。

 この腕もこんなに逞しくはなかった。

「暑い」

 そう言って絡み付いてくる腕を払う。

 俺が好きだったのは可愛い秋だったのに。

 いや、別に今の秋が嫌いなわけじゃない。

 未だ恋人継続中だし、前と変わりなく好きだ。

 でも俺の野望は秋を抱くことだったのに!!

 宣言どおり俺より成長した秋をどうして抱きたいと思う?

 一年前に有無を言わさず抱いておけばよかったんだ。

 可愛い秋に言いくるめられずに。

「ねえ、今日雫ん家行ってもいい?」

「いいよ」

 俺が最近冷たくしているのに気づいてるのか秋はそれ以上何も言わずに

自分の教室に帰っていった。

 別に冷たくしてるんじゃない。

 秋は変わってないと思うのに、今までよりもイイオトコになった秋にどう接し

ていいかわからないだけ。

 前以上にモテるようになった秋に素直に嫉妬も出来ない。

 

 

 

「雫、調子悪い?」

 無口な俺に秋が気遣うように訊く。

 俺は言葉も出せず、ただ首を横に振った。

「別れたい?」

 不意に呟いた声に俯いていた顔を上げる。

 秋……?

「なんか最近冷たくて。俺のこと嫌いになった?」

「嫌いじゃない」

「好きでもない?」

 そういうことを言ってるんじゃない。

「何が気に入らないか言って? 何も言ってくれないんじゃわからない」

「……ムカツク!!」

 何が気に入らないって!? そんなの決まってる。秋が育ったからだ。

 気づけよ! 俺の機嫌が悪くなったのは身長抜かされてからだって!!

「雫……?」

「おまえが俺よりカッコよくなってるからだろ!! 唯一俺が勝ってたのが

身長だったのにそれさえも抜かされて!! おまえは前にも増してモテ

まくってるし!! 俺の気も知らないで!!!!」

 今まで溜めてた愚痴を一気に吐き出して、荒くなった息を宥める。

 あぁー、ムカツク!! ムカツク! ムカツク!! ムカツク!!!

「雫!!」

 暴言吐きまくった俺に何を勘違いしたのか秋はいきなり抱きついてきた。

「可愛い、雫!! 大丈夫だよ! 俺は雫一筋だから!!」

 ……待て。そーゆうことじゃない。

 確かに嫉妬もしてたけど、俺が怒ってんのは秋が俺より育ってるってこと

なんだけど。

「カッコよくなったってそれは雫の為だよ? 浮気なんか絶っっ対にしない

から!! ちゃんと教えてあげる」

 そう言ってベッドに倒される俺。

 俺の野望が叶うのは……いつ?

 

捧げ物