髪の色も 瞳の色も

 

「君みたいな綺麗な黒髪ならよかった」

 そう言いながら夏井さんは天然のサラサラな金髪に指を絡ませる。

 お祖母さんがイギリス人の彼は、1/4に薄まってもなお彼女のような

綺麗な金髪と碧眼を持っていた。

 それがコンプレックスらしい彼は、それでも女の子のような容姿はして

いない。

 父親似の男らしい端正な顔に、母親似の長身。

 彼は女の子から見たら“王子様”そのものなんだろうと思う。

 そんな彼が何故俺を選んだのかは未だに謎だ。

「知ってた? 東洋人の髪がイチバンしなやかで美しいって」

 ハゲる割合だって少ないんだよ?

 こんな細い髪、絶対いつかハゲるに決まってる。

 独り言のようにブツブツ言う彼に、そんなことを心配していたのかと苦笑

する。

「ねえ知ってた? 髪の色も瞳の色も、その人に合った、その人がイチバン

美しく見える色で生まれてくるんだって」

 そう教えてあげると夏井さんは急に俺をぎゅぎゅーっと抱きしめて顔中に

キスをしはじめた。

「だから君はこんなに美しいんだね」

 ……とか言われたって、自分が美しいと思ったことがない俺は首を傾げる

ばかり。

 まだ成長途中だとはいえ、美しいといえるほど顔立ちだって幼くないし、

躰もしなやかじゃない。

 あっ、でも筋肉の形は美しいかも。

 でも彼が言っているのはそういうことではないだろうし。

 なんたって髪の色の話をしてたんだから。

「この黒い髪と瞳を持った君が好きだよ」

 そう言って夏井さんが俺の短い髪にキスをする。

 だから俺もちょっと長いサラサラの金髪に手を伸ばして教えてあげる。

「俺も染めてなんかない、綺麗な金髪の、そのままの夏井さんが好きだよ」