遠回り
「おら、さっさと帰んぞ」 そう言って亮が振り返る。 「悪ぃ。俺、今日、チャリねーんだわ」 「あぁ?」 「兄貴がついでに乗せてってくれるっつーからよ。寒ぃのにチャリとか だりーし」 「はぁ? じゃあ、俺、帰るわ」 マジで俺を置いて帰ろうとする亮に俺は慌てて声をかける。 「待てよ。帰りはおまえがついでに乗せてってくれんだろ?」 「はぁ? 冗談じゃねーよ。遠回りになんじゃねーか」 心底嫌そうに顔を顰めながら友達甲斐のない言葉を吐き出す亮の腕を 取り、無理矢理引っ張って歩く。 「いいじゃねーか。チャリなら5分くれーのことだろーがよ」 片手で器用にマフラーを巻き、手袋を装着するおれに亮が溜め息を ついた。 「さ、帰ろーぜ?」 亮は結局、舌打ちしながら、しょーがねーなぁとか何とか呟いている。
「で? おまえ、何だよ、その乗り方?」 「しょうがねぇじゃん。このチャリ、ステップついてねーんだし」 背中あったかくていいだろ? そんなことを言いながら、俺は亮の腰に回した腕に力を込める。 「肩に置け。肩に」 マフラーに顔を埋めながらくぐもった声で亮が言う。 「寒ぃだろーが」 「まぁ、いいけどよー」 これが結構あったかくて。 これから毎日頼むわ、って言ったらどーなんのかなぁ。 すっげー嫌そうな表情する亮を思い浮かべて俺はひとり苦笑した。 |