例えばそれが愛でなくとも

 

 ただただ可愛いだけの存在だったはず。

 誰にも触れさせたくないなんて。

 誰にも渡したくないなんて。

 思うはずがなかった。

 思っては、いけなかったのに。

 

 

 

 

 

 誰かに笑いかける君が憎らしくて。

 誰かの話をするたびに君が独りぼっちなら、と願った。

 君の境遇を知っていたのに。

 君が羽ばたくのを望んでいたはずなのに。

 

 

 

 

 

 独りを恐れて泣く君を宥めるとき。

 暗闇を恐れてしがみつく君を抱きしめるとき。

 とても幸福を感じた。

 愛されているわけではなくとも、求められていることが幸せだった。

 でも足らない。

 それでは満たされない。

 

 

 

 

 

 何も疑うことのない瞳で見つめられ、深く繋がっていても手に入らないこと

を知る。

 何もかも受け入れられても、それでも満たされないことを知っている。

 君の気持ちは愛じゃない。

 それでも、

 それを知っていても、君を手放せない。

 手放すことなんて出来はしない。