七夕に願うこと
「好きになりたい」
短冊。 駅前のデパートに飾ってある笹のそばには色とりどりの短冊とペンが 置いてあった。 好きに書いて吊るせってことなんだろう。 ままならないことばかりだし、星に祈りたい気持ちもわかる。 しかし。 目の前の笹にある白い短冊の願い。 「好きになって欲しい」 とか 「恋人になりたい」 とか。 そんなのならわかる。 でも、「好きになりたい」 だって?
例えば母親が再婚して、新しい父親を好きになりたい、とか。 告白されて、その相手を好きになれたら、とか。 息子の拾ってきた小汚い犬をまた捨ててきなさいとは言えず、飼うことに なったはいいが、犬嫌いだから、とか?
そんな想像をして、これはすでに妄想だな、と苦笑する。
例えばこれが子供の字なら納得する。 「嫌いなニンジンを好きになれますように」 ってなことだろう、って。 でも、これはどう見たって大人の字だ。 いや、俺の字だって子供の字みたいな自覚はあるし、すっげーウマイ子供 の字かもしんないけど、こんな字書ける子供がニンジン嫌いって。 ……って偏見か?
「イズミちゃん、今日タナバタだよ?」 少し離れたところで笹を見上げていた女の子が近くの青年に話しかける。 「そうだね」 ちいさい彼女の手を取りながら青年は優しく頷く。 「願い事かなった?」 「どうだろう?」 「ねえ、イズミちゃん、あたしのこと、好き?」 「好きだよ」 「じゃあ、かなったんじゃない?」 嬉しそうに笑う女の子にそういうことじゃないんだけどな、と青年が苦笑 した。
もしかしたら。 白い短冊を見上げ、そんなことを思う。
「大丈夫よ。大きくなったら、あたしが結婚してあげる」 そんなことを言う女の子を引き、出口へ向かう青年を追いかける。
だから? 自分の中で声がする。 あの短冊を書いたのが彼だったら何だっていうんだ。 そうなんだけど。 でも、それでも、
「あの、」 |