嬉しいお返し

 

「ただいま〜」

 部屋で何気なくテレビを見ながら煎茶を啜っていた相原にやってくるなり

藤沢が抱きついた。

「お返しだよー」

 そう言って藤沢が相原に渡したのはホワイトデー用のキャンディーだ。

「……お返し……?」

 訝しげに首を傾げる相原にニコニコしながら藤沢は頷く。

「先月、おいしく戴いたので」

「先月……」

 呟いてしばらく考えている様子だった相原が思い至ったのか更に首を

傾げる。

「先月のお返しが今月なのか?」

 しかも飴? 意味がわからないといった表情をする相原に藤沢は苦笑

する。

 バレンタインデーを知らなかったんだ。

 知らなくて当たり前だろう。それでも―――…

「今日、何の日か知ってる?」

「はぁ? 数学の日だろ? 日本数学検定協会が円周率に因んで制定した

日だ」

 どうして彼はこうも無駄な記念日に詳しいのか。

 もっと恋人たちのイベントに詳しくなってもらいたいものだ。

 そう思いながらもそんな相原を愛しちゃっているのだからしょうがない。

「じゃあ314回キスしよう。今日という日に因んで」

 嬉しいお返しでしょ? そう言って早速1回目のキスを贈る藤沢に、

「それで足りるのか?」

 憎らしいほど愛しい表情でそう誘う相原。

「足りないならいくらでもしてあげる」

 だってお返しだからね。

 

如月