愛する君と

 

「結婚してくれ!」

 恋人が言った。

 どちらかの性別が女だったならば、俺は喜んで結婚しただろう。

 だがあいにく俺もコイツも男だ。

「死ね」

「酷っ! 6月じゃん。ジューンブライドじゃん。結婚しようよ」

「じゃあ問題外だ。6月はローマ神話の女神で結婚・出産を司る家庭・女性・

子どもの守護神ジュノーの月とされていて、この月に結婚する女性は幸福に

なると伝えられるんだから。残念ながら俺もおまえも女ではないしな」

 大体梅雨真っ盛りの日本でジューンブライドなんて頭おかしーんじゃねえ

のか?

「……どうして俺と結婚したいわけ?」

 あまりにもしょんぼりする誠司に溜め息をつきながら訊く。

「愛してるから」

 んなこっ恥ずかしいことさらりと言うな。

「これからの人生、ずっと一緒に歩いていきたい。俺以外に帰る場所がない

ようにしたい。楽しい時間も悲しい時間もふたりで過ごしたい。朝起きたとき

のおはようも、夜寝るときのおやすみも、全部全部俺だけに言って欲しい」

 何、この人?

 何、男相手にこんなこっ恥ずかしいこと言っちゃってんの?

 何、俺?

 なんでこんなバカみたいなセリフ、嬉しいとか思っちゃってんの?

 ああー、もうどうしようもない。

「ダメ?」

 デカイ男が小首を傾げながらお伺いを立てる。

 バッカじゃねーの。

 でもまあバカ同士、案外うまくやっていけるかもね。

 しょうがない。

 もうちょっと。もう少しだけ焦らしたら。

 コイツの欲しがってる言葉、口にしてやろうかな。

 

水無月