そんな夏の日

 

『シロップ買って来い。イチゴだぞ』

 それだけ言って電話は切れた。

 仕方がないのでスーパーに寄り道をして、カキ氷シロップ(イチゴ)を購入

する。

 どうせ押入れの奥の奥にしまってあった古いカキ氷器を引っ張り出して

暑さを凌ごうとしているだけだろう。

 

 

 

  コイビトの部屋に到着し、いつも通り勝手に上がる。

 扇風機を独占しながらジェリーと見つめ合っている奴の目の前に買って

きたシロップを差し出した。

「これでよろしーですか?」

「おう」

 彼はさっそく冷凍庫から氷を取り出しジェリーの脳みそにする。

 俺は買ってきたシロップを袋から出し、ビニールを破いた。

「見ろよ、これ。目動くんだってば。知ってた?」

 去年と同じことを言いながら楽しそうにカキ氷を作る男。

「あー、楽しそうだねー」

 俺はそれだけ言って差し出された器にシロップをかけてやる。

 彼はその上にさらに氷を降らし、山盛りのカキ氷を作ると、もう一度俺の

ほうに器を差し出した。

「さあ食うぞ!」

 二段シロップの赤いカキ氷をひとつ。

 男ふたりで囲む。

 いくらコイビトとはいえ、とは思いつつ、ふたつ作ってる間に最初のが融け

たら嫌だし。

 去年と同じ。

 的屋のよりはマシだが、氷がジャリジャリして、どうにも大して美味くない。

 だが彼がとても嬉しそうに食う姿を見て、また今年もまあいいか、と思って

しまう。

「ベタベタ……」

 器の底に赤いスープが出来た頃、彼が手を差し出し言った。

 どうにも食べるのが下手なのか、彼は大体何を食べても手を汚す。

 しょうがないな、と呟きつつ、手近なところに何もないので、彼の手を掴み、

ベタベタになったシロップを舐め取ってやる。

 余計ベタベタになるか?

 服で拭いてやればよかったかも。

 そう思いながら手を離すと、彼はまたスプーンを取り、今度はわざと口周り

を汚している。

「ベタベタ」

 そう言って唇を突き出す彼に。

 俺はまた、しょうがないな、と呟き、シロップを舐め取ってやる。

 まあいつも通りの、そんな夏の日。

 

葉月