ずっと君といるために
いくらコイツが「カミングアウト済みだ」と言ったって。 いきなり男が息子とつきあってる、と言ってきたら親は卒倒ものだろう。 大丈夫なんだろうか。 「そんな心配そうな表情すんなよ。大丈夫、大丈夫」 そう言って恋人がバシバシと俺の背中を叩いた。
何が大丈夫なのかさっぱりわからない。 目の前の厳つい男を見ながら頭が真っ白になるってこんな感じか、と 考える。 そんなことなら考えられるのに、言おうと思ってたセリフは勝手に脳内 から断りもなく旅行に出掛けてやがる。 「で、彼がおまえの恋人か?」 「うん。ワリといい男でしょ?」 わりとってなんだ。わりとって。 またしてもそんな無駄なことを考えてる俺に彼の父親は、いつも息子が お世話にとかなんとか言っている。 厳つい容貌のわりに普通のおじさんだ。 いや、そうではなくて。 緊張しすぎて右から左に抜けていった言葉だが、話し終わったらしい おじさん、いやお父さん? お義父さん? そんな下らないことばかり 考える脳みそに喝を入れ、何か言葉を発しなければと焦るばかり。 「息子さんをください!!」 思わず出た言葉にいちばん吃驚したのは多分俺。 「いくらでだ?」 冷静に彼の父親は俺にそう訊く。 そんなこと言われても人身売買なんてはじめてで相場が……。 いや、そういうことではない。 そうじゃないだろ。 ください、というのはあくまで結婚させてください的な意味合いであって、 売ってくださいの意味ではない。 大体俺はいくら持ってる? 給料日は一週間後。 来る途中で手土産を買ったとき、財布の中にはいくらあったっけ? えっと、おつりを貰って、そのときは……。 新渡戸がひとりと漱石が? 「イチマンエン……?」 「やらん!」
お幸せに。 |