だって君といたいから

 

「なんでダメなんだよぅ……」

 そう言いながら目の前で大きな男が項垂れている。

 この光景ももう何度目になるのか。

 俺はこれ見よがしに大きな溜め息をつき、周りに散らばっている紙片を

集めた。

「見てみろ、これを」

 破れた紙の一部を男の目の前に突き出し、大きな声で読んでやる。

「婚・姻・届!」

 しかし男はそれがどうしたと言わんばかりに首を傾げるだけだ。

「アッタマおかしーんじゃねえか!? 男同士じゃ結婚できないことくらい、

この空っぽなアタマでもわかるだろーが!」

 小さな脳みそがカラカラ言うんじゃないかと男の頭をぐらぐら揺する。

 男は俺のその手を掴み、キスをして。

「結婚して欲しいんだよ……」

 これもまた何度目かわからないいつもと同じ呟き。

「これ、10000枚目だったのに……」

「はぁ!?」

 暇さえありゃ何度も何枚も持ってきやがって、と思っていたがまさかイチ

マンも!!

「10000枚記念にいいこと教えてやる」

「何?」

「男同士の場合は養子縁組だぞ」

「そんなの知ってるよー」

 はっ? じゃあなんで今まで婚姻届を持ってきてたんだ?

 ギャグか? ギャグのつもりなのか?

 俺が混乱しているというのに、男は急に笑顔になって言う。

「じゃあそっちの紙持ってきたら書いてくれるんだなー?」

 なんだー、最初からそっちにしとけばよかったじゃん。どうせ婚姻届は

出せないんだしー。

 記入するなんて俺はひとっことも言ってない。

 なのに男はひとりで嬉しそうに笑ってる。

 まあもう一回、10000枚持ってくる覚悟があるなら考えてやってもいい

かもな。

 

 

お幸せに。

 

イチマン