君を待つ

 

こうやって実の帰りを待ってると思い出す。

まだ片想いだった頃を。

 

 

 

 あの頃の俺はまだ小学生で、実にこっちを向いてもらうには会いに行くって

ことしか思いつかなかった。

 毎日、実ん家まで会いに行って、扉の前で会えるまで待つ日々。

 何ヶ月か経って、いい加減寒くなってきた頃、見兼ねた実が合鍵を作って

くれた。

 そんとき俺はすっげー嬉しくて、実もホントは俺が好きなんじゃねえ? 

とか思ったくらいだ。

 そして俺は誰もいない実の部屋で、実の帰りを待つことになった。

 ウチに帰れば、ちゃんと母親がいて「おかえり」って言ってくれて、こんな

暖房の効いてない部屋じゃなくて暖かいリビングが待ってるのに。

 それでも俺は実に会いに行った。

 1日1回、実に「好き」を伝える為だけに。

 

 

 

 

 

 中学生になっても俺はずっと実ん家に通った。

 1日1回、実の顔を見て「好き」ってことを伝えたかったから。

 でも実だって大人で、俺の相手ばっかしてらんないし、帰りが遅い日だって

もちろんある。

 そういう日、実は律儀にも電話をしてくる。

 実ん家の電話に俺が出るワケにもいかないから無視してんだけど、留守電

に切り替わると「一馬、いるんだろ?」って。

「実、遅い。いつ帰ってくんの?」

 受話器を取ってそう訊けば、決まって実は、

「今日は遅い。もう帰れ」

 って言う。

「イヤだ。実に会うまで待ってる」

 そう言ったって実は溜め息をつくだけ。

 だから俺はいつも通りのセリフで諦めてやる。

「今日は帰ってやる。実、好きだぞ。俺に惚れろ」

 

 

 

 

 

“恋人”に格上げされた今は“帰れコール”はなくなった。

「高校生にもなって、夕方帰れはナイでしょ?」

 俺がそう言えば、実は今時の高校生を何だと思っているのか。

「じゃあ夜。9時には帰れ」

「恋人なのに?」

 間髪入れずに言ってやる。

 そして俺は、答えに困る実に“お出迎え”を渋々許可された。

 

 

 

「おかえり」

 扉を開いた実にそう言えば、

「ただいま」

 照れ臭そうに、でもそれを俺に悟られないように、ぶっきらぼうに視線を

逸らしてそう言う。

 そんな実を毎日好きになっていく。

 

 

 今までよりも好きだから。

 明日はきっと、今日より好きになってるよ。

 

君といつまでも。