イチバン
「ケータイ買った」 一馬が高校生になって数ヶ月経ったある休日、突然俺の部屋を訪れた 奴はそう言った。 「ふーん……」 最近バイトを始めたとは思っていたが、その為だったのか。 「ふーんって何? もっと他に言うことあるでしょ?」 ……言うこと? 一馬に不服そうにそう言われ“言うこと”を考えてみる。 「……ない」 一馬の言う“言うこと”が思いつかずそう答えれば、奴は盛大な溜め息 をつく。 「これからはいつでも連絡とれるんだよ? 学校いてもメールできるしさ」 これが“言うこと”だったのだろうか。 「勉強しろよ」 「そういうことじゃなーい!」 呟きが聞こえたらしい一馬はそう叫び、俺からケータイを取り上げた。 「ホントは俺のこと好きなくせに」 と、これまでの会話との繋がりがわからないことを呟きながら、初心者 とは思えない手つきでケータイを操作している一馬。 しばらくすると満足したのかケータイを返してくれた。 「メモリー1」 そう言いながら奴は自分のケータイを見せる。 確かに俺の名前が1に登録されている。 「トモダチいないのかよ」 そう呟くとさっきと同じようにそうじゃないでしょ! と怒られた。 「実のもそーなってるからね」 言われて自分のケータイのメモリーをチェックする。 ……自宅だったはずの1番に“林一馬”の文字。 「これからもずーっと俺が実のイチバンだからね」 呆れるほどの甘い声でそう言いながら俺の頬にキスをする奴。
こんな男のどこがよかったんだ、俺……。 |