大事なもの
|
「一馬」 「んー?」 生返事の俺が気に入らないらしく、実が顔を顰めるのがわかった。 しかし、今はいいところなのだ。 邪魔しないでもらいたい。 「一馬」 「なに?」 あと30分。 最終回なんだから。 「一馬!」 はぁ…… 「何?」 俺はタイミングよくCMになったテレビから視線を外し、振り向いた。 「人の話はちゃんと顔見て聞けよ!」 「ハイハイ。で、何?」 「ハイは1回!」 「はい。ごめんなさい」 で、話は何なの? もうすぐCMあけちゃうんだけど? 「あのさ……」 うん? 「やっぱ、いいや」 ちょうどドラマが再開したとき、実が言った。 「いいの?」 そう訊けば頷く。 でも、多分…… 俺は笑いを噛み殺しながらテレビを消した。 「実。こっち来て」 真剣に見ていたドラマを中断した俺を不思議そうに見つめながら実が 近づく。 そんな実をぎゅっと抱きしめて髪にキスをする。 こうして欲しかったんでしょ? 実は照れ臭そうに俯き素っ気無く言う。 「テレビ、いいのかよ?」 「うん。いいよ」 きっと誰か録画ってるし、ビデオでも借りればいい。 でもこうゆうのは、そうはいかないでしょ? 「好きだよ」 そう言ったって実は素直に言えないんだろうけど。 「ぎゅってさせてね」 「別にいいけど」 照れ隠しなのがバレバレの実の言葉。 近くで感じる実の体温。 好きなドラマの最終回より、もっともっと大事なもの。 「好きだよ、実」 |