作戦成功

 

 一馬は嫉妬深い。

 たまに会社の同僚と飲みに行っただけで疑われる。

「信じてないのか?」

 そう訊けば哀しそうに俯き、首を振る。

「実のことを信じてないんじゃない。ただ俺はまだ高校生で、男で。

……自信がないんだ」

 確かに俺は元々女にしか興味がなかった。

 それがどうしてか一馬とつきあうことになったのだ。

 でも今までの顔も思い出せないような女よりは一馬のほうが大事だ。

 一馬は……多分、初恋が俺なんだろう。

 ゲイかどうか、まではわからないけど。

 でも男とか女とか素っ飛ばして俺を好きになったんだと思う。

 小学生の一馬にとって、俺のどこが魅力的だったのか、未だによく

わからないけど。

 

 

 

「今日、帰るの遅くなるから」

『どうして?』

「送別会だって。今度栄転する奴がいるから」

『ふーん。わかった。飲みすぎちゃダメだよ?』

 ……おかしい。

 いつもだったらここで駄々をこねてるはず。

 こんなに物分りのいい一馬ははじめてだ。

「わかってる。じゃあ」

 別に物分りがよくて困るわけでもないので、俺はそう言って電話を切った。

 飲みに行くだけだ、と言っても浮気じゃないかと疑ったり。

 仕事で遅くなる、と言っても浮気なんじゃないかと疑ったり。

 そんな一馬が当たり前だったからなんだか拍子抜けした気分。

 いつもは鬱陶しいと思うのに。勝手なもんだ。

 

 

 

「おかえり〜」

 もうとっくに日付も変わっているというのに俺の部屋で俺の帰りを待って

いた一馬。

 さっきは珍しく聞き分けがいいと思ったのに。

「何でいるんだ?」

「明日休みだし。1日1回は実に会いたいしね」

 いつも通りにっこり笑って俺を抱きしめる。

「はいはい」

 俺もいつも通りおざなりな言葉を返す。

「じゃあもういいだろ? 帰れば?」

「酷っ! 実だって明日休みなんだしいいじゃんか! 一緒に風呂

入って、一緒に寝ようよ」

 ……そんなこと、一度だってしたことないだろ?

「嫌だ。鬱陶しい。風呂くらいひとりで入れ」

 大体このアパートの狭い風呂に男ふたりで入れると思ってんのか。

「……酷い……」

 ……上目遣いで瞳をウルウルさせたってダメだからな。

 そんなデカイ図体でそんな仕種したって可愛くないんだから。

「実は俺のこと好きじゃないの……?」

 ダメだ。ダメだ。ダメだ。

 こんな臭い芝居に引っ掛かるもんか。

「俺は実が好きなのに……」

「…………はぁ」

 俺はこれ見よがしに大きな溜め息をついた。

 これくらいは許されるだろ?

「わかったよ。好きにすれば?」

 結局はこうなってしまうんだから。

「わーい。実大好きー」

 一馬はそう言って俺を抱きしめ、そのまま風呂場へ引きずり込む。

 今日俺は、嫉妬深い一馬の聞き分けのいいときは、必ずウラがあるって

ことを学んだ。

 

君といつまでも。