告白

 

 大好きな人と恋人同士になった。

 でも、彼は「好き」をくれない。

 

 

「俺の恋人になってくれる?」

「いいよ」

 

 ってことで、俺たちは恋人同士になった。

 その頃は表情とか仕種とか、そういうのが、俺のこと「好き」って言っている

みたいで言葉がなくても我慢できた。

 でも最近は―――…

 

「先輩、日曜ヒマですか?」

「ヒマだけど?」

 ほら、また。

 前はもっと話しかけるだけで笑顔だったのに。

「えっと、俺ん家来ませんか?」

「別にいいよ」

 居た堪れなくなって、じゃあ日曜に、なんて気の利かないセリフを残し彼に

背を向ける。

 

 どうしてか、わからない。

 まだ恋人同士になって3ヶ月。

 3ヶ月ってのは、別れが多いっていうけど、俺らも?

 でも実を言えば、まだ躰の関係もない。

 今時の中学生だってもっと進んでるだろ。と思うくらい、純なお付き合いを

続けてる。

 なのに先輩は別れたいと思ってるんだろうか?

 何が原因かわからない。

 俺自身、付き合い出した頃と何ら変わっていないからだ。

 ……訂正。

 変わったことがひとつだけ。

 彼がもっと好きになったってこと。

 今までよりも近くで見ることが出来る彼は、今までよりも可愛く見えて、

今までよりも好きになった。

 あっ、あと身長が伸びたが、それは健全な高校男子、当然のこと。

 わからない……

 別れたい、なんて言われたら、俺はどうすればいいんだろう……?

 

 

 

『今から行く』

 ケータイに素っ気無いメールが入る。

 彼の自宅から俺の家は自転車で15分程度。

 あと15分で彼が来ると思うとドキドキする。

 いや、別に、何するわけじゃないんだけど。親だっているし。

 

 

「渡辺?」

 躊躇いがちにされた小さなノックの後、先輩が扉から顔を出す。

「おばさんが、上がって、って……」

「いらっしゃい」

 俺はそう言って、彼に近づき、扉を開いてやる。

「うん」

 やっぱり俯き加減にそう言うと、先輩は定位置になってるベッドのわきに

腰を下ろした。

「先輩、何飲む?」

「なんでも……」

 目を合わせようともしない。

「ん……わかりました……」

 俺はそのまま部屋を出て、キッチンへ向かう。

 

 やっぱり、俺のことなんてもう嫌いになった?

 俺はこんなに好きなのに……

 

「ちょうどよかった。ケーキがあるんだけど、紅茶でいい?」

「あっ、うん」

 キッチンへ行くと、母さんがそう言って紅茶を淹れてくれた。

「ありがと」

 ケーキと紅茶の乗った盆を受け取り、部屋へ戻る。

 

「先輩……?」

 窺うように扉を開き、声をかければ。

「なっ、何!?」

 怪しいほどの驚き。

「いや、ケーキあったんだけど。……紅茶でよかったですか?」

「うっ、うん」

 そう言う彼の前に盆を置き、目を逸らす彼を見つめた。

 

「俺のこと、どう思ってるんですか……?」

 

 急に出た俺の言葉に先輩が戸惑っているのがわかる。

「どう……って……?」

「最近、何かよそよそしいし、俺のこと……」

 情けない……

 怖くて、嫌いかとは、別れたいのかとは、訊けないなんて。

「俺は……俺より小さくて可愛かった渡辺が好きだった……」

 俯いて呟くように先輩が言う。

「それって……」

 今の俺は好きじゃないってこと?

 俺の気持ちを察したのか、違う、と首を振る。

「今も好き……でも、ドキドキする……」

 俯いたまま先輩が言う。

「ドキドキ……?」

 そんなの俺だってしてる。

 先輩といるときはいつだって。

「だって、渡辺カッコよくなったし……あの頃とは違う……」

 それって告白?

 前は可愛くて好きだったけど、今はカッコよくて好き?

 なんだか嬉しくて、顔がニヤケてしまう。

「俺のこと、好き?」

「好き」

 即答にまた嬉しくなり、ニヤケ顔のまま彼の頬にキスをする。

「先輩、好きだよ」

 今日(というか背が伸びてから)はじめて、先輩と目を合わせて告白した。

「俺だって……」

 彼は頬を紅く染めて呟く。

 

 

 

 大好きだよ。

 これからは毎日、告白するよ。

 だからずっと恋人でいてね? 先輩。

 

初恋