幸せな年に。

 

「先輩、一緒に初詣行きませんか?」

 渡辺がそう言ってきたのは、クリスマスも過ぎた日曜日。

 もちろん恋人の彼を放っての約束なんてないし、異存はない。

 俺が頷くと渡辺は幸せそうに笑う。

「じゃあ11時頃に迎えに来ますね」

 そう約束をして今日何度目かのキスを交わす。

 好きだと囁けば同じ言葉を返してくれる。

 それがとても幸せで、いろいろあったけどいい1年だったな、と思った。

 

 

 

「そろそろ行こう」

 何気なく見ていた紅白も終わり、テレビを消す。

 今から行けば時間的にちょうどいいだろう。

「先輩、マフラーもして」

 渡辺に言われ、コートに手袋、マフラーの重装備で初詣に行くことに

なった。

 確かに近所とはいえ、冷たい風の中、薄着で出かけるわけにもいかない。

「寒ー!」

 ぶくぶくに着膨れながらそれでも冷たい風が頬を刺す。

 寒さが和らぐわけでもないのに寒いを連呼しながら歩いていると隣の渡辺

が手袋の上から手を繋いできた。

「!?」

「こうしてれば、あったかい気がしません?」

 吃驚している俺に言い訳のような渡辺の声。

 寒いから、それを理由に繋ぐ恋人の手。

 確かにあったかいけど!!

 大晦日だからさ! 人がいっぱいいるわけだよ!?

 いつもなら神社なんか見向きもしない人々が!!

 それでも人が沢山いれば目立たないもので。

 俺たちは手を繋いだまま歩く。

 こんなふうに、恋人っぽいこと、普段あんまり出来ないし。

 なんだか、すっごくくすぐったい。

 

 

 

「何お願いした?」

 人の波にもまれながら短い参拝を済ますと、また人の波にもまれつつ来た

道を引き返す。

 ちっちゃな神社なのによくこんなに人が集まるもんだと思うが。

「お願いなんてしませんよ」

 俺の問いに渡辺は意外な答えを寄越す。

「俺はそんな他力本願なことしません。初詣では今年の抱負を語るんです」

「抱負?」

 俺は初詣では願い事をするもんだって疑いなく思ってたし、世間一般でも

そうゆうもんじゃないんだろうか。

「そう。去年は健康で過ごしました、ありがとうございます。今年も健康に

過ごせるように気をつけるので、見守っててください。とかね」

「へぇ……」

 確かに願い事するよりも健全かも。

「じゃあ、今年の抱負は?」

 気になってそう訊けば、渡辺はイジワルな微笑を浮かべ俺を見る。

「先輩が願い事教えてくれたら教えてもいいけどなぁ」

「えぇー、人に言ったら叶わないって言うじゃん」

 今年の願い事叶わなかったら悲しいしなぁ。

 でも渡辺の抱負は気になる。

 ……俺って結構ワガママ?

「じゃあ、俺も秘密」

「抱負ならいいじゃん」

 人に言ったって叶わないわけじゃないんだし。

 俺が拗ねたように唇を尖らせると渡辺は微笑し耳元に唇を寄せた。

「去年は先輩を恋人に出来たら、今年は先輩を幸せにします」

「バッ……バッカじゃない……!?」

 そう言って渡辺を振り払うけど、耳まで真っ赤な顔を隠せるわけはなくて。

 嬉しいけどさ!

 そういうこと普通に言う!?

 俺はまだまだ成長中の渡辺を見上げて睨みつける。

 そんな睨みもなんのその、渡辺は嬉しそうな笑顔を見せる。

「で、先輩の願い事は?」

「俺の願い事叶わなかったら、おまえの抱負も叶わないぞ」

 しつこく訊いてくる渡辺に、せめてもの仕返しにとそんなことを言ってやる。

 しばらく意味を考えているようだった渡辺が急に真っ赤になり俺の手を

ぎゅっと握った。

「ホントは今すぐ抱きしめたい」

 でも外だからね、そんなことを囁かれ、渡辺以上に真っ赤になる俺。

 幸い真っ赤な顔で手を繋いでる男同士に気を留める人なんていない。

 新年を大好きな人と過ごしてる。

 その幸せな時間に他人を観察する余裕がないのは皆同じ。

「あけましておめでとう」

「おめでとうございます」

 ふたりで手を繋いで笑いながら帰る。

 きっと俺の願いは叶うはず。

 だって今がこんなに幸せだから。

 

初恋