恋人

 

「楠、来月の服装検査についてだが、」

 有能な副委員長がそう言ってプリントを手渡す。

「そんなものはどうでもいい。どうせ、おまえが全部決めたんだろう?」

 楠大介はそう言ってたった今手渡されたプリントを床に捨てた。

 若松聡は律儀にそのプリントを拾い集める。

「ああ。だが、委員長が何も知らないでは困る」

 一応目を通しておいてもらおうか、とプリントを机の上に置いた。

「わかった。不備があるわけないが目は通しておく」

 だから、そう言って楠は若松の腰を抱き寄せた。

 そしてその手は容赦なく振り払われる。

「だからなんだ。今すぐ目を通せ。今週中には提出しなくちゃならないんだ」

「水曜だぞ。水曜。まだ充分に時間はある。今日くらい俺の言うことを聞け」

「なにが今日くらいだ。毎日そう言ってるくせに」

 楠は若松の腰を抱き寄せ、若松はその手を振り払う。

 それが何度か繰り返され、ついに楠は強行手段に出た。

「!!」

 強く抱き寄せバランスを崩した若松を自分の膝に座らせる。

 そしてすかさず唇を塞いだ。

「〜〜〜」

 当然若松も抵抗するが、如何せん態勢が悪い。

 舌を入れられ、剰え楠の長い指が躰を這い回り出したら、もう若松の抵抗

など抵抗にならない。

「やだ……やめろ……」

 しかしここは学校だ。

 どんなとき、どんな人物が入ってくるかわからない、学校の教室だ。

「嫌なのは俺? それともココ?」

 そんな若松の考えなどお見通しの楠は意地悪くそう言うと、手を止め、

若松の答えを待った。

「……ウチ、行こ?」

 中途半端な状態で放り出された若松は、普段は決して見せない甘えた

表情をし、楠を誘う。

 せっかく誘ってくれたのに、本能に任せて押し倒してしまっては、その後が

どうなるかわからない。

 楠は理性を総動員し、早足に学校を後にした。

 

 

 

 

「ったく。いつもこうなんだから……」

 眠っている楠を見つめながら若松は悪態をつく。

「聡、好きだ」

 と囁きながら容赦なく自分を貪り抱く男。

 拒んでも拒みきれないのは結局は惚れた弱みなのだ。

 あちこちが痛くても、幸せな気分になるのも。

「うん……」

 寝ぼけて自分を抱き寄せる楠に若松はそっとキスをした。

「俺も好きだよ。大介」

 

初恋