死ぬまでずっと

 

 ベタベタしない、と思っても。

 相手がしてくる場合はどうなんだろう?

 

 何がなんだかわからないうちに高藤と暮らすようになって。

 彼は家でも外でもお構いなしに俺を甘やかす。

 執着するばかりでされたことのない俺はそんな彼にただただ戸惑う

ばかり。

 でもそれは決して嫌なわけではなく、むしろ心地よい束縛。

 

 

 

 さすが有名人。というか、そんな俺たちはすぐに噂になった。

「すぐに捨てられる」とか「どうせ遊びだ」とかいう予想がついて。

 そんなこと、言われなくたってわかってる。

 高藤に自分が不釣合いなことくらい。

 それでも。今だけは。

 彼が俺を必要としてくれる今だけは。

 

 

 

「アイツ、誤解されやすいんだよね。まあ、本人が気にしてないんだから

しょーがないけど」

 高藤の友人だという麻生が俺に耳打ちする。

「そんなこと、宮嶋がイチバン知ってるんだろうけどさ」

「何の話?」

 麻生が綺麗なウインクを寄越したとき、コーヒーを持って高藤がテーブルに

ついた。

「いいや、なーんにも」

 そう言って席を立つ麻生。

 これ以上お邪魔しても悪いんでね、と空になった紙コップを持って食堂を

出て行く。

「何話してたんだよ?」

 ちょっと拗ねたように言う高藤が可愛くて。

「別に。なんでもないよ」

 とか言って誤魔化してみる。

 やっぱりちょっと拗ねたように、そう、とかなんとか言いながら気にしてない

フリをする高藤がやっぱり可愛くて。

 ねえ、もしかして俺のこと、ホントに好きなの? とか思った。

 

 

 

 

 

 麻生の言葉がぐるぐる回る。

 ひとりで考えててもわかんなくて。

 今まで聞きたくない、と耳を塞いでいた噂に耳を傾けてみた。

 

「高藤の誕生日は一日中一緒にいた」

 だってその日は俺と一緒にいたじゃない。

 

「昨日は一晩中離してくれなくて」

 今日も昨日も一昨日も、帰ってこない日なんてなかった。

 

 ……ねえ、もしかしてホントに俺だけなの?

 

 

 

「好きだよ」

 高藤が言った。

 もしかしたらこの言葉も。

 いつもの好きだよも。

 本当に本心からの言葉だった?

 俺が噂を信じて。

 イチバン近くにいるはずの高藤よりも周りを信じてて。

 ただ怖くて。

 信じて裏切られるのが怖くて。

 俺のこと好きな高藤しか知らないのに。

 でもホントに高藤が俺のこと好きなら納得できる。

 いつもきちんと帰ってくるのも。

 俺を抱きしめて眠るのも。

 俺に愛を囁くのも。

 全部全部本心で。

 噂なんかただの噂で。

 そしたら俺は何を躊躇っていたんだろう。

 ホントにホントに両想いで恋人で。

 愛してるも好きだよも。

 嘘なんかどこにもなくて。

 

 

 

「高瀬菜摘とつきあってたってホント?」

「誰?」

「森は? 菊池とか。梨本とかとも噂になってた」

「うわー……あの噂信じてたのー?」

 そう言って頭を抱える高藤。

 噂は噂?

 俺の知ってる高藤がホントの高藤?

「嘘だよ、あんなの! 俺は祐司しか好きじゃないって言ったじゃん!! 

クッソー! こんなことになるならきっちり説明しとけばよかった……」

 段々と尻すぼみになりながら高藤が項垂れる。

「あのとき、言ったじゃん」

 あのとき?

 

『愛してる。祐司だけを愛しています。浮気なんかしたことない。するつもりも

ない。不安になんてさせないくらい、ずっとずっとそばにいるから』

 

 思い出すのは高藤の告白。

 一緒に暮らそうと言ってくれたあのときの。

 ……あれは本心だったの?

 

「もう一回言うから信じて」

 高藤は真摯な瞳で俺を見つめる。

「俺は祐司を愛してます。祐司だけを。他の誰も代わりになれない。祐司が

いれば幸せだから」

 そのあとも告白は続いていたらしいが、俺の耳には届かなかった。

 ただ涙が出て。

 あのときみたいに声を上げて泣いたから。

 やっぱり高藤もあのときみたいにぎゅっと俺を抱きしめて。

 それでもあのときと違うのは。

 嘘でもいいと思ったあのときと違うのは。

 この人を信じようと思う俺の心。

 疑うことは簡単だけど。

 信じることよりずっとずっと簡単だけど。

 今はまだ。

 これからもまだ。

 できればずっと。

 高藤と一緒にいたいから。

 だから高藤を信じようと思う。

 そしてずっと信じさせてくれればいいと思う。

 ずっとずっと死ぬまでずっと。

 それが真実だったと。俺は幸せだったと。

 臆病な俺がそう気づくことが出来るまで。

 それまでずっと高藤と一緒にいたいから。

 

嘘でもいいから