すべては君が

 

 言わなくても伝わるなんて。

 態度だけで充分なんて。

 そんなの俺の独りよがりだと気づいたのは最近。

 伝わっていると思ってた。

 毎日言う「愛している」も。

 他の誰でもない、毎日彼のそばにいることも。

 でも祐司が泣くから。

 噂を信じて。

 俺を想って泣くから。

 強引な始まりだったことを自覚してるから。

 もちろん俺を想ってくれる祐司は嬉しいけれど。

 そばにいて。抱きしめて。愛を囁いて。

 いつでも、いつまでも、笑っていて欲しい。

 俺のそばにいることで。

 俺と共にいることで。

 幸せだと、笑っていて欲しい。

 

 

 

 

 

「好きだよ」

 そう言って頬にキスをする。

 くすぐったそうに、嬉しそうに微笑うのに。

 それでも返ってくる言葉はなくて。

 

 彼は想いを言葉にすることを躊躇う。

 自意識過剰なんかじゃなく、俺のことは好きだと思う。

 恥ずかしがってるわけではなさそうだけど。

 ならば何故躊躇うのか。

 言葉にすればもっともっと伝わるのに。

 

「ねえ、俺のこと好き?」

 こんな女々しいセリフ、自分が吐くとは思わなかった。

 それでも気になる。

 好きな人の気持ち。

「え……あ……うん……」

 躊躇いがちに頷くだけで。

 ねえ、どうして言ってくれないの?

 ホントは俺のこと、好きじゃないの?

 

 不安になるのは好きだから。

 俺の生死も感情もすべては君が握ってる。

 

 

 

 

 

「ごめん。好きな人、いるから」

 祐司とつきあい出してから、大体こう言えば納得してくれるようになった。

 しかし中には往生際の悪いやつもいるわけで。

「そろそろ飽きたんじゃない? あんな顔だけのオトコ。だっ……」

「うるさい。関係ねーだろ。おまえとつきあう気はないって言ってんだよ」

 俺のことはいいが、祐司のことを悪く言われるのは許せない。

 俺の運命の人。

 たったひとりの愛する人。

 

 

 

 やっぱり。

 そう思った。

 ここからでは何を話しているかまではわからないが、きっとまた告白されて

いるのだろう。

 しつこく食い下がっているらしい女性。

 遠くからだってわかる。

 彼女が他より秀でて美しいことくらい。

 それでも彼女に向ける高藤の視線は冷たい。

 やっぱり。

 高藤だって誰だって、しつこくされたら嫌になるはず。

 相手が誰だって。

 いくら今、好きだと思ってくれているとしても。

 そばにいて欲しいから。

 そばにいたいと願うから。

 ワガママ言わない。束縛しない。

 だからお願い、そばにいて。

 

 

 

「好きだよ」

 いつも通りそう言って、祐司の顔を覗き込む。

 泣きそうな表情で俺を見上げる祐司に、どうしたのかと手を伸ばせば、びく

りと躰を竦めて。

 嫌なの?

 俺に触られるのは嫌なの?

 どうして? 俺のこと、嫌いになったの?

 絶望的な気分で祐司のことを見つめる。

 好きになってくれたんじゃないの?

「高、藤……?」

 祐司が躊躇いがちに俺の頬に手を伸ばす。

「どうして……?」

 

 

 

 どうして泣くの?

 どうしてそんなに辛そうなの?

「好きだ……」

 そう言って高藤がそっと俺の手に触れる。

「逃げないで……そばにいて……嫌いに、ならないで……」

 涙ながらに訴える高藤に目を瞠る。

 俺だけじゃなかったの?

 高藤も不安だったの?

 ずっと、そばにいることを、願ってくれるの?

「好き」

 高藤の耳に届くようにはっきりと。

「好きだよ。ずっとそばにいて。俺だけ、見てて」

 ずっと、ずっと、思ってたけど。

 それでも怖くて言えなくて。

 でも言わなくちゃいけないんだ。

 だって好きだから。

 誰よりも高藤が大切だから。

「はじめて、言われた……」

 きつく高藤に抱きしめられながら、何を怖がっていたんだろうと思った。

 毎日、毎日、高藤は俺だけを見て、俺だけに言ってくれたのに。

 怯えて、躊躇って、傷つけて。

 それでもこの手を、温もりを、放すことなど出来ないから。

「愛してる。高藤が不安になることなんてないんだよ」

 だって。

 俺の生死も感情も、すべては君が握ってる。

 

嘘でもいいから