愛に気づくまで

 

 ウンメイって何?

 アイシテルってどうゆうこと?

 

 あんたは愛しているんだと言うけれど。

 俺は愛の意味を知らない。

 

 ねえ、教えて、アイの意味を。

 どうか、教えて、スキの気持ちを。

 

 

 

 

 

「ウンメイって何?」

 今までの悩みはどこへやら。

 すっかり宮嶋と恋人同士になった高藤に前と同じことを訊く。

 ヘラヘラとだらしなく笑う高藤の横で宮嶋は、何の話かわからない、と首を

傾げた。

「言葉で説明出来るようなもんじゃないんだよ。こう、なんつーか、感じるわ

け。祐司をはじめて見たときみたいに『この人だ!』って」

 はじめて聞いた話なんだろう。

 宮嶋はウルウルした瞳で高藤を見つめている。

 バカップルにあてられに来たわけじゃない。

「じゃあ、はじめて会ったときに感じなかったら、それは運命の人じゃないわ

け?」

「わかんねーよ。俺は祐司しか知らねーもん。でも長い間、付き合って、かけ

がえのない人になって、ああ、この人が運命の人だったんだなぁ、って思う

かもしんねーだろ?」

 何のアテにもならない答えに、それならば、と別の質問をする。

「アイシテルって何? どうゆう感情? ねえ、こいつのこと、アイシテル?」

 最後の質問は宮嶋に向けて。

 そんなこと答えなくていいからな、とか何とか言いながら、それでもソワソワ

する高藤をチラリと見て、宮嶋は小さく頷いた。

「どういう感情かって訊かれると困るけど、愛してるかどうかは即答出来る。

高藤がいなきゃ、高藤が俺のこと愛してくれなきゃ、きっと俺は俺じゃなくな

る」

「愛してる。愛してるよ」

 そう言って宮嶋をぎゅうぎゅうと抱きしめる高藤。

 外だってのに、慣れているのか宮嶋は嬉しそうに笑うだけ。

「どーゆう気持ちなんだよ?」

 ちょっとイライラしながら高藤に訊く。

「言葉になんか出来ねーよ。なんつーか、祐司がそばにいてくれれば幸せだ

し、笑ってくれると嬉しい。どれだけ一緒にいても飽きないくらい、ずっとずっ

とそばにいたい」

 告白し合ってもらうために呼んだわけじゃないのに、ナゼだかふたりは愛と

やらを確認し合って、さらにバカップル度が増している。

 ムカついたので、ノロケを聞いてやったんだから、と伝票を高藤に押し付け

て帰ることに決めた。

 

 

 

「どうしたの? ご機嫌ナナメ?」

 男がそう言って俺の頭を撫でる。

「べっつにぃー」

 そんな俺の姿に苦笑しながら男は後ろから俺を抱きしめた。

 この男、どうやらベタベタするのが好きらしい。

 年上だからか知らないが、甘やかしたいらしい、俺を。

 別に優しくされるのも、甘やかされるのも好きなので、俺は男のしたいよう

にさせる。

「可愛いなぁ」

 目尻を下げて男が微笑う。

 こんな角張った男のどこが可愛いんだか。

 確かにこの男も高藤のように、そばにいてくれれば幸せだとか、笑ってくれ

ると嬉しいだとか。愛しているとか好きだとか。

 色々、ホントに色々口にする。

 日本人なんだからもっと慎めばいいのに、って思うのは俺だけなんだろう

か?

「何、難しい表情してんの?」

 男の指が眉間に触れる。

 難しい……。

 せっかく、わざわざ、高藤なんかに話を聞きに行ったのに収穫はないし。

「あんたのせいじゃない?」

「俺?」

「そう。あんたが俺のこと愛してるとか言うから」

 そう言う俺に男が微苦笑し、いきなり膝の上まで引き上げられた。

「俺は思ったことを口にしてるだけなんだけど」

「だーかーらー、それが! 俺には! わかんないの!!」

 ムカついたので男の整った髪をくしゃくしゃにしてやる。

「アイシテルってどうゆうこと? スキってどんな気持ち?」

 つきあい出すとき、そう言った俺に、わかんなくてもいいって男は言った。

 そばにいてくれるだけでいいって。

 愛されてくれるだけでいいって。

「どうして俺にはわかんないの?」

「どうしてなんだろうねぇ? 家族や友達がいないわけでもないのに……」

 男はくしゃくしゃの頭のまま困ったように微笑う。

「家族と同じでいいの? 友達と同じでいいの?」

 あんたは、そんなスキを求めているの?

「……違うな。違う愛が欲しいよ」

 急に真顔で男が言う。

「あんたは俺から愛がもらえなきゃ、別れたいと思ってんの?」

「いや、おまえが俺を愛していなくても、俺はおまえといたいよ」

 はっきり、きっぱりそう言う男に。

「じゃあ、いいじゃん。だってわかんないもんはわかんないし。ずっと一緒に

いればわかるかもしんないし」

 高藤だって死ぬ間際に気づくかもって言ってた。

「だから、死ぬまでそばにいてよ」

 俺が愛に気づくまで。

 あんたを、運命の人だと思えるまで。

 

嘘でもいいから