諦めの悪い男
一目惚れはあるのだと、彼を見たときはじめて知った。 遠くから見つめることしか出来なかったけど、それでも好きだと思った。
彼のまわりには男女問わず綺麗な人たちがいたから、自分なんて視界に も入れてもらえないんじゃないかと思ってた。 だから彼が声をかけてくれたとき、嬉しくて嬉しくて、うまく話すことが 出来なかった。 そんな俺をどう思ったのか、彼は俺に近づいてきた。 ……ただ自分に笑顔を向けない俺が、珍しかったんだろう。 俺だって笑顔で話したかった。 彼の眼を見つめ、彼に触れたかった。 ただ、俺には……彼のまわりにいる綺麗な人たちほど自分に自信がなく て、勇気がなかっただけだ……。 それでも彼が他の人より自分を優先してくれるのが嬉しかった。 きっと俺が好きだと告げたら、飽きられるのだろうけれど。
「好きだ」と彼が言った。 「恋人になって欲しい」と。 「他にもたくさん恋人がいるのに?」 そう言うと少し苦い顔をし、 「アイツらは恋人なんかじゃない」と言った。
じゃあ何? 遊び相手? 恋人とどんな違いがあるの? 愛しているのが恋人だけなら何人と遊ぼうが関係ないの?
「今関係のある人間と別れろ。俺だけを愛するって言うなら考えてもいい」 俺は彼には出来もしないだろうことを要求した。
これで諦めてくれればいいと思った。 これで諦められればいいと。 彼は遊びで人を抱ける。 相手が本気になったら終わり。 彼にとって恋愛はゲームだから。 ただの暇潰しの為のゲームなのだから。
「わかった」 彼が言った。 「あなただけを愛するから、俺だけを愛して」と。
そんなこと出来るわけがない。 たとえ恋人になったって、彼はすぐに俺に飽きてたくさんの遊び相手が 出来るんだ。 だって俺は最初から彼しか愛していないんだから。
「修さん? どうしたの?」 諦めの悪い男は結局俺を諦めず、諦めの悪い俺も結局彼を諦めることは 出来なかった。 どんなに酷い男でも、愛しい気持ちは偽れない。 「なんでもねえよ」 そう言って愛しい男にキスをする。 不意打ちのキスに驚きながら満面の笑みの男。 こんなダラシナイ表情してても好きだと思ってしまう俺はかなり重症。 「好きだよ、修さん」 「そりゃ、どーも」 |