狡い男

 

「もう、離せ」

 そう言って修さんが俺の腕を振り払う。

 鬱陶しそうに髪を掻き上げ、バスルームへ向かっていく修さんを未練たら

しく見送りながら俺も立ち上がり衣服を身に着ける。

 思わず出そうになった溜め息を無理矢理飲み込み、冷蔵庫からミネラル

ウォーターのペットボトルを出してそのまま口をつけた。

 

 修さんは無口だ。

 いや、もともと口数の少ない人だが、躯を繋げているときは特に。

 俺としてはちゃんと俺を感じてるって確認したいんだけど。

 俺のことが嫌いなわけじゃないと思う。

 最近じゃ俺のこと好きなのかも、と思うことも多くなった。

 でも、実際そう言われたことはない。

 いつも俺ばかり彼に想いを伝え、彼は微笑ってそれを受け取るばかり。

 

「俺にもよこせ」

 風呂上りの修さんはそう言って俺からペットボトルを奪い取った。

 存分に飲み、空になったペットボトルを押し付けられる。

「修さん……俺のこと好き?」

「……はぁ? 毎度毎度同じ質問をするな。鬱陶しい」

 本当に鬱陶しそうに俺から顔を背け、修さんはいつも通りの答えを寄越す。

「こんなことやってんだ。わかるだろ?」

 わかるけど。

 でも言って欲しい言葉もあるよ?

 今までの俺だったら好きだ、愛してる、なんて言葉、鬱陶しくて大っ嫌い

だったけど。

 でも好きな人からの想いは嬉しいでしょう?

 修さんからは欲しいんだよ?

「俺だけを愛して、ってお願いしたじゃん」

「……俺が浮気したか?」

 怒っているらしい修さんのいつもよりちょっと低い声。

「そうゆうことじゃないよ」

 振り向いた修さんの肩を掴み、しっかりと視線を合わせる。

「俺のこと愛してるって感じたいの!」

 子供みたいな俺のワガママに修さんが溜め息をついた。

「しょうがないな……」

 俺の首に手を回し、微笑いながら唇を寄せる修さんを見つめる。

 卑猥な音がするくらい濃厚なキス。

 俺からは絶対させてもらえないキス。

「わかるだろ?」

 こんなズルイ修さんがそれでもやっぱり大好きで。

 惚れたほうが負けだもんな、と溜め息をつく。

「ねえ、もっと感じさせて?」

 

悪い男と冷たい男