無口な男

 

「俺のこと愛してるって感じたいの!」

 彼は子供みたいなワガママを言い、俺を困らす。

 言わないのは捨てられたくないから。

 こんなにこんなに愛しているけど。

 

 

 

「修さんってさー、無口だよね」

 不満そうに言う彼に俺はまたも口を噤む。

 それは元々。

 俺は彼のように社交的ではないし、面白いことも言えない。

 そばにいたって全然楽しくなんかない。

「饒舌な恋人を見つけたらどうだ?」

 捨てられるのが怖くて、いつも自分からそんなことを言う。

 実際頷かれたら、きっと俺は死んでしまうけど。

「なんでそーゆうこと言うワケ? 俺は修さんが好きなんだよ?」

 その言葉に気づかれないように、ほっと息を吐く。

 好きだと言われるたびにほっとする。

 抱きしめられるたびにまだ大丈夫だと思う。

 俺が彼に気持ちを伝えなければ、きっとまだそばにいてくれる。

「ねえ、声聞かせて?」

 そう言って忍び込んでくる指先に声を殺す準備をする。

 ただ彼に翻弄されるこの時間。

 声なんて出せない。

 彼の名前を呼びたくなるから。

 好きしか言えなくなってしまうから。

 抱きしめられる腕にほっとして、本心しか言えなくなってしまうから。

「好きだよ、修さん」

 そう言ってくれる彼に思わず「俺も」と言いたくなるのを彼の背中を強く抱き

寄せ、必死に耐える。

 声を出さないように。

 好きだなんて、本当は愛しているなんて。

 そんなこと絶対言えないのだから。

 

悪い男と冷たい男