君がいないと。

 

 仕事ならしょうがない。

 何度目になるかわからない溜め息を零しながら、やっぱり何度目になるか

わからないことを自分に言い聞かせる。

 

 

 

「修さん、ごめん。大晦日仕事入っちゃった」

 そう言って目の前で頭を下げる男にいつも通り素っ気無く、気にするな、と

言ったのは自分だ。

「女、子供じゃあるまいし」

 大晦日にひとりだからなんだ。

 大好きな彼に気取られないように気にしていない振りをする。

「仕事終わったら、ソッコー来るからね」

 いつも通りの笑顔でいつも通りのキスをしてそう言う彼を鬱陶しそうに

振り払いながらもう一度気にするな、と言ったのは俺だ。

 

 

 

 静かな部屋が淋しくて意味もなくテレビをつける。

 今日だけじゃない。

 逢えない日なんて今まで何度もあった。

 それでもやっぱり淋しいと思うのは、今年最後の日に愛しい人と一緒に

いられないからだろうか。

 思っても絶対口には出来ないことを考えながら、また溜め息をついた。

 テレビではカウントダウンが始まろうとしている。

『10……9……8……』

 5まで数えたとき、いきなり嫌がらせのようにインターホンが鳴った。

「誰……?」

 無意識に呟いて腰を上げる。

 こんな時間に来客なんて……。

 もしかしたら、なんて都合のいいことを考える頭を振りながら不機嫌を装い

受話器を取る。

『修さん! 俺!』

「今、開ける」

 嬉しさでニヤケそうになる顔を引き締め扉を開く。

「修さん! あけましておめでとー」

 外気をまとった男に抱きしめられ、冷たい躯を抱きしめ返す。

 テレビからは彼と同じようにはしゃいでいる声が聞こえてきた。

「なんとか終わらせてきたんだよ」

 そう言いながら部屋に入り、脱いだコートをソファに投げる。

「だってイチバンに言いたかったもんね」

 そう言ってやっぱりいつも通りキスをする男。

 俺だって、いちばんに会いたかった。

「淋しかった」

 聞こえないほどの声で呟きながらもっと深いキスを求める。

 だっていちばん好きだから。

 

悪い男と冷たい男