あのこがほしい
恋をした。 同じクラスのそれはそれは可愛い子。 背が低くて、いつも静かに本を読んでる大人しい子。 ちょっと口が悪くて、目つきも悪いけど、笑顔がめちゃくちゃキュートな子。 その笑顔にノックアウト。 男なのに、って思わなくもないけど、可愛い可愛い彼が自分の恋人だった ら嬉しすぎるから。 他の奴らがあの子の隣にいたら嫌すぎるから。 だからどーしても、あの子が欲しい。
「桐谷くん! 好きなんだ!」 登校してきた彼に公衆の面前で言う言葉ではないなぁ、と頭の隅で思い ながらも俺の行動は止まらない。 「……何が?」 不機嫌そうに顔を歪め、見上げてくる澄んだ瞳にドギマギしながら桐谷くん が、と小さく呟いた。 「ふーん……」 俺の瞳を覗き込んだ桐谷くんは一瞬の後、あの可愛らしい笑顔で小首を傾 げると、 「今日、一緒に帰る?」 可愛すぎるー!! 心の中で絶叫しながら俺は壊れた人形のようにただカクカクと頷く。 「そ? よかった」 そう言って桐谷くんは何事もなかったかのように自分の席へと着席した。 俺はその背中を見つめ頬を抓って現実であることを確認する。 だらしなく、始終ニヤニヤしている俺を友人は遠巻きに見つめているだけ。 それがどうした。 俺は幸せなんだ。 あぁ〜……早く放課後にならないかなぁ〜。
「安藤、帰ろ」 「う、うん」 またしても何度も何度も頷き、先を歩く桐谷くんを追いかけた。 あぁ、幸せすぎる。 可愛い可愛い桐谷くんと一緒に帰れるなんて……。 「―――う、安藤!」 夢心地で何を話しているのかわからなかったけど、いきなり腕をとられ、 桐谷くんの怒った顔が目の前に。 「俺の話、聞いてる? ホントは俺と帰りたくなかったの?」 「そんなことない! 好きだ!」 質問の答えとは関係ない心の声が出る。 それに桐谷くんはあの可愛い笑顔で応えてくれた。 「ウチ、寄ってく? って言ったの、聞いてた?」 …………!! 友達でも会ったその日に自宅に呼ぶことはめったにない。 それがどうして、クラスメイトだとはいえ、いきなり告白してきた男を招待し ようと思うのだろう。 自分にいいようにしか考えられないのは嬉しすぎる急展開のせいです。 「行く?」 「お願いします!」 俺の変な返事にちょっと苦笑し、桐谷くんは先を歩いた。 「俺のこと、好きなんだよね? 俺とつきあいたい?」 「もちろん!!」 振り向くことなく問いかけてくる桐谷くんの横に並び、無駄に大きな声で 答える。 「……エッチなこと、したいの?」 いきなりの質問に一瞬硬直するものの、好きな相手に嘘はつけない。 「そりゃあ桐谷くんが好きだし……」 でも、すぐってわけじゃ、とかモゴモゴと言い訳のように呟いた。 「……つきあっても、いいけど?」 上目遣いに見つめられ、ドキドキする心臓を制服の上から押さえる。 「ホント……?」 「うん」
「ウチの親、帰ってくるの遅いし、ベッド行こ?」 玄関に入るなり、いきなりそう言って桐谷くんが俺の服の裾を掴んだ。 鼻血出る! 可愛すぎるー!! 「い、いいの?」 いや、好きだけど。 願ってもないチャンスだけど。 でも、今日、恋人になったとこだし。 「うん」 俺の服の裾を掴んで俯く姿がー! ハンパなく可愛いー! 世界中で彼より可愛いものはないっつーくらいの可愛さだー!! ガバッと音がするイキオイで抱きしめる。 「大好き!」 思わず出た言葉に桐谷くんが抱きしめ返してくれた。 「行こ?」 腕を引かれて桐谷くんの部屋まで連れて行かれた。 シンプルで整頓された部屋。 散らかり放題の俺の部屋とは大違い。 「こっち」 そう言って桐谷くんが俺をベッドへ押し倒す。 ……? 積極的な桐谷くんもモチロン素敵だけど、やっぱりハジメテは俺がリード したいなぁ。 そんな暢気なことを思っていると次々と服を脱がされていく。 ……あれ? 首筋にキス。胸元にキス。腹部にキス。 「あの……桐谷くん……?」 「何?」 ベルトに手を掛けられたとき、何かおかしい、と思って桐谷くんを見る。 「俺のこと、好きなんでしょ?」 桐谷くんはそう言うと、今まで見たことのない種類の笑顔を浮かべた。 「だったら、大人しくしててね」
結果的に俺の想像を遙かに超えたオツキアイが始まったわけだけれども。 「安藤」 あの可愛い笑顔を見せられたら、何でも許せてしまうわけで。 惚れたほうが負けだって言うしなー、というわけで俺は今日も桐谷くんに ベタ惚れです。 |