僕のための君

 

「好きなんです! つきあって下さい!!」

 わりと言われ慣れたセリフだったが、男に言われたのハジメテだ。

 俺は目の前で顔を真っ赤にしている男を凝視した。

「知ってんの? 俺、メンドーなコト大嫌い」

「知ってます! 来る者拒まず、去る者追わず。恋人らしいことを強要しよう

ものなら容赦なく切り捨てる!」

 ……ヒッデー言われようだな。

 まあ、間違いじゃないし、反論はできねーが。

「それでもいいわけ?」

「はい! 好きなんです!!」

「……いいけど?」

 つきあうのはメンドーだけど、断ってつきまとわれるよりマシ。

 別にしたいようにさせておけばいっか。

 どうせ、そのうちコイツも飽きるだろうし。

 

 

 

 

 

「山岡さん! 好きです!」

 外だろうが気にする様子もなく、笹倉が告白する。

「あ〜、はいはい」

 ご苦労なこって。

「一緒に帰りましょう!」

 そう言って笹倉は俺の鞄を当たり前のように持つ。

 山岡は男とつきあってる、と噂が流れ、女が寄って来なくなった。

 こんなこと言っちゃ失礼なんだろうが、正直助かる。

 それだけでも、この男とつきあってる価値はあるだろう。

 つきあってる、と呼べるのかは謎だが。

 懐いているなあ、とは思うが、何も求めてこない。

 鬱陶しいし、邪魔に思うが、ただじゃれついてくるだけで。

 どっか連れてってとか、私のこと好きなのとか、メンドーなこと言わない

ところがいい。

 まあ、今までの女に比べたら好きなほうだと思うけど?

「山岡さん、手、繋いで、いいですか?」

 そんなお伺いをたてながらも手はすでにがっちり握られている。

「…………」

 別にいいけど。

 減るもんでもないし。

「へへ」

 マンガキャラみたいに馬鹿笑いする笹倉を見上げる。

「好きです」

 目が合った途端に言われた。

 脈絡がない。

 でもわざわざそんなこと突っ込まないし、会話する気もないので無視して

視線を戻す。

 右頬に視線を感じたが、メンドーなので気付かないフリをした。

「好きです」

 握る手が、痛いくらいだ。

 

 

 

「山岡さん!」

 そう言ってハートマークを飛び散らしながら抱きついてくる笹倉の頭を

撫でてやる。

 メンドーだと思っていた男だが、何も俺に強要せず、尽くすだけ尽くす笹倉

に何の駄賃もないのは可哀想か? とかちょっと上から目線で思ったり。

 なのでこうしてたまには頭を撫でてやる。

 ……って抱きついてきてる時点で奴には充分駄賃になってるんだろうか?

「山岡さん、明日の休み、ヒマ?」

 待て、をさせられてる犬みたいに上目遣いで机の端から俺を見上げてくる

のが可愛くて、また犬みたいにわしゃわしゃと頭を掻き回してやった。

「何? 何か用?」

 面倒臭さを隠そうともせずそう言うと、しゅんと肩を落とす。

 その姿がホントに可愛くて、昔好きだったイトコん家の大型犬を思い

出した。

「休みだし朝起きんのメンドー。起こしに来てくれるわけ?」

「えっ!?」

 あ、耳が立った。ホント犬みたい。

 でも俺、犬の面倒とか見れねーし、こいつが人間でよかったかも。

「行きます! 起こします! 寝顔みたいです!!」

 ……違うくねーか?

 そう思ったけど、やっぱりメンドーなので無視することにした。

 

 

 

「山岡さん」

 そう言って遠慮がちに揺すられた。

 なんでコイツがいるんだ? とボケた頭で考えながらも眠たいので無視を

する。

「山岡さん」

 今度は少し強く。

 鬱陶しいので笹倉に背を向け、丸まって眠る。

「山岡さん……」

 今度は呼ぶ声が小さくなったと思ったら、ベッドが軋んだ。

 前髪をかき上げる手の冷たさに首を竦め、頭を振って布団を被ると小さな

溜め息が聞こえた。

「山岡さん、起きてください。今日はデートですよ?」

 笹倉がいつもより2割増しに優しい声を出す。

「ヤダ。眠い」

 簡潔に答えて、引っぺがされないように布団をぎゅっと握った。

「デートしましょうよ。楽しみにしてたんですよ?」

 布団の上から背中を撫でられる。

 くすぐったい。やめてほしい。

 寝汚いと言われようが、約束を反故にしようが、俺は今眠たいのだ。

 寒くて布団から出る気にもならない。

「ヤダ」

「じゃあ、寝顔見せてください」

 そう言って笹倉は布団の端を引っ張る。

 俺はそれを取り返し、さらに丸まる。

「山岡さん」

 呆れたような声が聞こえたと思ったら、力いっぱい布団を剥ぎ取られた。

 衝撃と気温差に目が覚める。

「あれ? 寝てていいんですよ?」

 ムカつく表情で笹倉が言う。

「死ね!」

 俺は笹倉を蹴り飛ばすと布団を奪い返した。

 若干眠気を吹き飛ばされたものの、また布団の中で温まれば眠れる

はず。

 転がっている笹倉はいないものと考え、俺は再び眠ることに決めた。

 

 

 

「山岡さん、起きたんですか?」

 目の前の笹倉にそう言われ、心の中で首を捻る。

「山岡さーん?」

 ひらひらと手を振り、まるで俺の寝起きを疑っている態度にやっと寝る前

(正確には二度寝前だが)の出来事を思い出した。

「なんで、ウチにいんだよ?」

 目を擦り、起きあがりながら問うと、もう一度目の前で手を振られた。

 まだ寝ぼけていると思われているのだろうことはわかるが、それを指摘

するのもメンドーなので、その手をぺチンと叩き落とす。

「起こしに来てほしい、って言ったの、山岡さんじゃないですか」

 ……欲しい、とは言ってないが。

 それに俺のした質問と噛み合ってない。

「チガウ……」

 溜息のように漏れた声に笹倉は律義に反応すると、そんなことわかって

ましたよ、と言わんばかりの表情をした。

「まだ寝てるから勝手に起こしてやって、と麻奈さんに言われました」

 まな……って誰だっけ?

 首を傾げて記憶を巡らせていれば、溜め息をついた笹倉に「お母さん

でしょう?」と教えられた。

 そう言えばそうだった。

 つーか、息子の友人(正確には恋人なんだけど、一応)に自分の名を

名乗るか?

 おばさんとかでいいだろ。

 まあ、どーでもいいんだけど。

「着替える」

 立ち上がってクローゼットに向かっても笹倉はその場から動かない。

 別に男同士だし見られて困るもんでもないけど、恋人への配慮はない

もんだろうか。

「そこにいるなら手伝えよ」

「いいんですか!? ぜひ!!」

 冗談半分に呟いた言葉に笹倉が耳聡く反応する。

 抵抗するのもメンドーで好きにさせてやることにした。

「どれ着ますか? 俺が決めてもいいですか!?」

 問いかけながらも俺の意見を聞く気などないのだろう。

 笹倉はクローゼットを遠慮なくひっかきまわすと、俺なら選ばない組み

合わせの服を取り出してきた。

 ……別にいいけど。

 されるがままにパジャマを脱がされ、次々と服を着せられる。

 ちょっと着込み過ぎな気もするが、寒いので気にしないことにした。

「ありがと」

 靴下まできっちり穿かせてもらい、さらには立ち上がらせてもらう。

「顔洗ってきてください。デート行きますよ」

「朝飯……」

「もう昼です。外で一緒に食べましょう」

 空腹が満たされるなら文句はない。

 俺は頷いて、洗面所に向かった。

 

 

 

「涼輔、あんた、いつまで寝てんの?」

 洗面所に向かう途中出くわした母親が呆れたように言う。

「起きた」

「起こしてもらったんでしょ?」

 おまけに盛大な溜め息をつかれた。

 ……別にいいんだけど。

「お昼どうするの? 何食べたい?」

「外行く」

「あら、そう? じゃあ早く準備しなさいよ」

 自分が邪魔してんじゃん。

 メンドーなのでツッコミはやめて今度こそ洗面所に入った。

 

 

 

「さあ、行きましょう」

 部屋に戻ると俺のコートまで持って準備完了の笹倉が待っていた。

 頷いてコートを受け取り、どこに行くのか知らないが、笹倉に続いて部屋を

出る。

「寒っ」

 外に出るとコートを着ていても寒くて、マフラーも持ってくればよかったと

後悔した。

 しかし今さら戻るつもりはない。

 首を竦めて寒さを軽減しようと試みる。

「何やってるんですか」

 笹倉が呆れたように溜め息をつき、自分のマフラーを俺の首に巻きつけて

くれる。

「あったかい」

 だが、首が温まると今度は手が冷たいことが気になる。

「手、繋ご」

 歩くのも怠かったので右手はポケットに入れ、左手を差し出した。

 笹倉が引っ張ってくれれば楽だ。

「いいんですか!?」

 笹倉は盛大に驚き、あたりをキョロキョロと見渡す。

 ああ、そうか。

 寒いだけなんだけど、勘違いしてる?

「ヤダ?」

 メンドーなので訂正することなく、さらに前へ手を差し出す。

「いいです!!」

 いい加減寒いので左手もポケットに入れようかと思っていたら、やっと手を

握られた。

「腹減った……」

 あまりの空腹に力尽きそうで、ずんずんと進む笹倉が通り過ぎようとした

ファミレスの前で踏ん張る。

「あ、はい。メシ食いましょう」

 振り返って微笑うと今度はファミレスに向かって手を引いてくれた。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「二人です」

 繋いだ手はそのままに。

 店員は見えていないのか見ないフリか。

 別にどーでもいいんだけど。

 実際つきあってるし、何もしてなくてもホモなわけだし。

 席に案内されてからやっと手を離して向かい合わせに座る。

「何食べますか?」

 見やすいようにメニューをこちらに向けてもらい、マフラーを外しながら

厳選する。

「和風ハンバーグ」

 メニューを指して注文を頼むとコートも脱いだ。

「はい」

 笹倉はメニューをパラパラとめくると決まったのか店員を呼んだ。

「和風ハンバーグのセットとトンカツ定食。ドリンクバーつけて。あと食後に

モンブランを」

 店員が下がると笹倉はドリンク持ってきます、と立ち上がった。

 何がいいか、とか訊かないんだろうか。

 ……別にいいけど。

 いらなかったら飲ませればいいし。

「どうぞ」

 差し出されたのはホットのカフェラテ。

 それはいいのだが砂糖が見当たらない。

「もう砂糖入ってますよ」

 俺の思考が読めるのか、笹倉はそう言って俺にカップを握らせる。

「ありがと」

 ちょっとだけフーフーして口に含む。

 うまい。

 温度もちょうどいい。

 ……なんつーか、コイツ、いいな。

 俺用に作った俺だけの召使いみたい。

 とか失礼なことを思っていると、笹倉はニコニコしながら俺を見つめてくる。

 俺は手の中のカップと笹倉を見比べ、ちょっと身を乗り出して、笹倉の頭を

撫でてやった。

「へへ」

 笹倉は馬鹿笑いをしたまま嬉しそうに俺を見つめている。

 何が楽しいのかわからない。

 別にいいんだけど。

 室温とカフェラテで温まったところでハンバーグが運ばれてきた。

「イタダキマス」

 きちんと手を合せ、先に食べる。

 ……別に待つ必要、ないよな?

 どうにもナイフとフォークは苦手なので、馴染んだ箸でハンバーグを切り

分け、口に入れた。

 腹が減っているからか、いつにも増して美味く感じる気がする。

 無言で食事を続けていたが、いやに視線を感じて顔を上げると、笹倉が

さっきと同じように何が楽しいのかニコニコと俺を見つめていた。

 俺はそれを無視して食事を続けることにする。

「大変お待たせ致しました」

 俺の食事がほぼ終わりに近づいた頃、やっと笹倉のトンカツが運ばれて

きた。

 時間差ありすぎじゃね?

「あ、モンブランお願いします」

 笹倉はそう言って店員を下がらせ、きちんと手を合せ、いただきますをして

食事を始める。

 俺は食事を終えて、それをぼーっと見つめる。

「何ですか?」

 ちょっと照れたみたいに笹倉が見返す。

「別に?」

 何かあって見てたわけじゃないので返答に困る。

「そうですか?」

 そう言って笹倉は食事を再開した。

「お待たせ致しました」

 店員がモンブランを迷うことなく俺の前へ置く。

 いや、笹倉はまだ食ってるし、俺の前で当然なんだけど。

 別に、俺、頼んでないし。

 男が甘いモン好きってそんなにダメか?

「食べて下さいね」

 食事に集中していると思っていた笹倉が俺をニコニコ見つめながら言う。

「うん」

 何が楽しいのかわからないまま、言われた通り、モンブランを口に運ぶ。

 美味くて思わず俺もニコニコしてしまう。

 

「どこ行きますか?」

 食事を終えると笹倉がそう問いかける。

「デートなんだし、お前決めれば?」

 誘ったのお前なんだし。

 と、そう言えば、笹倉は首を傾げ考える素振りをする。

「どこでもいいんですか?」

「…………」

 どこでも、と言われると困る。

 きっと大丈夫なところのが少ないから。

「そうでもないんですね」

「歩くのは疲れる」

「じゃあ映画とか?」

「寝るかも」

「…………」

 今度は笹倉が悩んでいる。

「ウチ、来ますか?」

 結局どこへ行くのも却下になったらしい。

 まあ、多分どこでも断ることになったんだろうし、ホント、俺のことわかってる

なぁ。

「いいよ」

 会計を済まして、笹倉のウチへ向かう。

 当たり前のように笹倉が支払うのを裾を引っ張って目で問いかける。

 しかし笹倉は俺から徴収する気はないらしい。

「デートなんで、カッコつけさせてください」

 笹倉はそう言って微笑うと外に出た途端また手を繋いできた。

 寒いし、場所わかんないし、別にいいんだけど。

 

 

 

 手を引かれるまま住宅街に連れて来られる。

 歩くのヤダって言ったじゃん。

 結構な距離歩いてね?

「ここです」

 よかった。

 いい加減疲れたので帰りたくなってきたところだ。

 帰りはどうしよう。

 疲れるなー。

「どうぞ」

 玄関の鍵を開けて扉を開いてくれる。

「こっちです」

 鍵を取り出すときに離れていた手を、靴を脱ぐとそれを揃える前に再び

繋がれる。

 いや、揃える気は然してなかったんだけれども。

 手を引かれるままに階段を上がって二つ目のドアを開いてくれる。

「ここが俺の部屋です」

 ドアの向こうは綺麗な部屋。

 俺の部屋とは大違い。

「飲み物持ってきます」

 エアコンをつけてダウンを脱ぐと笹倉は部屋から出て行った。

 寒い……。

 まだ部屋が暖まってないので、俺は部屋で唯一暖かいだろうベッドに

無断で入る。

 冷たい……。

 しばらくしてやっとちょっとあったまってきたような気がした。

 ああ、でも、今度はコートがもぞもぞするかも。

 寒かったからといつまでも着ていたコートを、出ると寒いので寝たまま

無理に脱ぐことにする。

「何してるんですか?」

 トレイにカップを載せた笹倉がドアを開いて俺を見つめている。

「寒い?」

「何で疑問形?」

 苦笑しながらトレイを机の上に置くと、寝たままの体勢で器用にコートを

脱がせてくれた。

「ココア持ってきましたよ」

「うん」

「温かいうちに飲んだらどうですか?」

「うん」

 笹倉は溜め息をついて、まるで病人のように俺を起き上がらせてくれる。

「背中寒い」

 文句を言えば、後ろから抱き締めてくれる。

 うん。これならあったかいから許す。

「どうぞ」

「うん」

 そう言いながらも寒いので手を出そうとしない俺の口にカップを近づけ、

ココアも飲ませてくれる。

「老人ですか……」

「介護?」

 笹倉は溜め息をついて、それでも嬉しそうに俺を構ってくれた。

「何しますか?」

 部屋も暖まってきて、布団から出れるだろう気温になった頃、笹倉が

問いかける。

「何でも?」

「何で疑問形なんですか?」

 何でも、と言っておきながら、俺はもぞもぞと寝る体勢に入ることにした。

 いくら部屋が暖まろうが布団の中のがあったかいに決まっている。

 背後から俺を抱きしめていた笹倉は必然的にひざまくらをすることに

なった。

「かたい……」

「男ですから」

 そんなことを言いながらも俺の髪を撫で、俺が寝やすいように体勢を変えて

くれる。

 いい奴だなぁ……。

 腹も満たされ、あったかい。

 笹倉が撫でてくれるのが気持ちよくて、俺の思考はそこで途切れた。

 

 

 

「何?」

 目が覚めると笹倉が寝る前と変わらない体勢で俺を見つめていた。

 なんだかんだでマジ寝してたらしい。

 どれくらい寝たのだろうか、と時計を探して視線を彷徨わせる。

「好きです」

 突然の告白に時計を探すことをやめ、笹倉を見上げた。

 思いつめたみたいな表情の笹倉が微動だにせず俺を見つめている。

 どうしてそんな表情するのかわからない。

「何も求めないって言ったけど、やっぱり辛いです。少しでも……俺のこと、

好きですか?」

 好き……?

 好きか嫌いかでいえば好きなほうだ。

 どうしてそんなことを訊くのかわからなくて俺はただただ笹倉を見上げる。

「俺はずっと、見てるだけで満足しなくちゃいけないんですか?」

 苦しそうに眉間にしわを寄せ、絞り出すような声で笹倉が問う。

「触ったり、抱きしめたり、キスしたり……そういう対象じゃ、ないですか?」

 うぅ〜ん……?

 好きだけど。

 確かに好きだけど。

 そういう対象とかよくわからない。

 でもいなきゃ困る。

 すごく困る。

 俺には笹倉が必要だと思う。

「してみれば?」

 深く考えることもせず、俺の口から言葉が飛び出した。

 どうしてもダメだったら諦める。

 俺のための笹倉だって思うけど。

 それでも笹倉の求めるものを与えられなければ傍にいられないなら諦める

しかない。

 すごく、勿体ない気がするけど。

「いいんですか?」

 押し殺した声で笹倉が呟く。

 見上げた笹倉の表情は、欲情した男のそれだった。

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 満足したのか、さっきまでの思いつめた表情ではなく、いつもの馬鹿

みたいな笹倉が心配そうに俺を見つめる。

「うぅん……?」

 大丈夫かわからない。

 それなりに気持ちは良かった。

 男相手、というか受け身はハジメテなのでやっぱり無理があったけど。

 それでも気持ち悪いとかは思わなかったし。

 男の相手なんてしたことがないし、何もかもやってくれる笹倉に任せっきり

だったが、笹倉は満足なのだろうか?

「で?」

 俺が何を言いたいのかわからないらしく、きょとんとした表情で笹倉は俺を

見つめる。

「そばにいてくれる?」

 言った後に、これじゃあ俺が笹倉を好きみたいだ、と思った。

「いさせてください」

 でもそんなことを言って笹倉が嬉しそうに笑うから。

 予想外に幸せな気分になった。

 これが好きってことなのかも? とか思ったり。

 まあ、しばらく教える気はないんだけど?

 

短編