世界でいちばん君が好き

 

「なあ兄ちゃん。兄ちゃんってば〜」

 健太郎は甘えたような声を出し颯の服の裾を掴む。

「なんだ、鬱陶しいな。17にもなって」

「酷い! 兄ちゃんは俺のことなんて好きじゃないんだ!!」

 そう言ってデカイ躯を部屋の隅へ丸め、口を尖らせ拗ねる。

 颯は溜め息をつき、健太郎の頭を撫でた。

「好きだよ? で、宿題わかんないの?」

 健太郎が勝手に颯の部屋へやってきて寛いでいるのはいつものことだ。

 しかし、執拗に甘えてくるときは、大抵何か頼みごとがあるときである。

「うん。まあね」

 颯はやっぱりな、という表情をし健太郎の頭を撫でていた手を引いた。

 健太郎は名残惜しそうにその手を見つめる。

「教えてあげるから、早く持っておいで」

「うん。だから兄ちゃんって大好き〜

「はいはい」

 おざなりな返事を背中で聞き、健太郎は自室に向かった。

 

 こうでも言わなきゃ、彼のそばにはいられない。

 健太郎はいつでも颯のそばにいたいと思っているが、鈍感な彼がそのこと

に気づくはずがない。

 挨拶のように言う、「好き」の言葉。

 彼にはきっと伝わらない。

「兄ちゃん、好きだよ……」

 

世界でいちばん君が好き