世界中の誰よりも

 

 最近、健太郎が懐いてこなくなった。

 いつも鬱陶しいほどじゃれついてきて、「好き」を連発するのに。

 成人男子が弟に「好き」と言われたいとは思わないが、何だか淋しい気が

するのも事実。

 

 

 

「彼女でも出来た?」

 久しぶりに俺の部屋へ来た健太郎に訊いてみる。

「なんで?」

「俺に甘えなくなったから」

 俺より甘やかしてくれる可愛い彼女が出来たのかな、って思って。

 そう言うと、健太郎は微笑して首を振った。

「自制してただけ。別に深い意味はないよ」

 自制?

 よくわからないけど、彼女がいないってことにホッとする。

「兄ちゃん、好きだよ」

 まだ高校生のガキのくせに妙に男臭い表情で健太郎が微笑う。

「俺の好きの種類、わかってる?」

 ドキドキする心臓。

 兄ちゃんに対する“好き”以外に何があるの?

「俺のこと、好き?」

 その問いに頷く。

 すると途端に嬉しそうに笑う。

「どういう好き?」

 弟に対する“好き”以外、何があるの?

「俺が甘えなくなったら、淋しい?」

「うん」

「俺に兄ちゃんよりも好きな人が出来たら?」

 俺より好きな人……?

 そういう人が出来たら、もう甘えてこない?

 俺に向けられていた“好き”はなくなっちゃう?

 俺よりその人といっしょにいたいの?

「哀しい?」

 うん。淋しい。

「泣かないで」

 そう言っていつのまにか涙目になっていた俺の瞼に健太郎がキスをする。

「俺のこと好き?」

「好き」

「どういう風に?」

「誰よりも」

「そばにいたい?」

「ずっと」

「じゃあ俺と同じ好きだね」

 やっぱり嬉しそうに微笑う健太郎。

「兄ちゃん、好きだよ」

 言葉と共に額に唇が降ってくる。

 いつもと同じセリフなのに、どうしていつもと違うんだろう?

「好き……」

 

世界でいちばん君が好き