世界中で君だけを

 

 「好きだよ」と健太郎が言った。

 俺も「好きだよ」と言った。

 ……でもそのあとは?

 

 

 

「兄ちゃん、好きー」

 ハートマークを飛ばしながら健太郎がじゃれついてくる。

 

 ねえ、好きってどういうこと?

 好き同士はどうするもの?

 

「何? どうしたの?」

 そんなことを言いながら俺の顔を覗き込んでくる健太郎。

 俺の気持ちも知らないで。

 ちょっとイジワルな気分になったので、形のいい鼻に噛みついてみた。

「何!?」

 軽く歯を立てたくらいだから痛くはなかったんだろう。

 健太郎は驚いて腰を引くと、訝しげに俺を見つめた。

「どうしちゃったの? 何かあった?」

 あったとも。

 おまえには性欲はないのか?

 俺とエッチしたいとか、思わないワケ?

 ……それとも、おまえの好きは、そーゆうんじゃない?

 ちゃんと彼女がいて、俺への好きは、兄ちゃんに対する好き?

 

「彼女いるの?」

「はっ??」

 唐突な俺の質問に明らかに困惑した健太郎の声。

 俺としては、好きだって言ったのにキスすらしない→ちゃんと彼女がいて

俺にそんなことする必要はない→だから俺に対する好きは兄ちゃんに対する

好き。 って意味で訊いてるけど、健太郎にしてみれば、何言ってんの? 

急に? って感じだろう。

「何言ってんの? 急に?」

 そしてまさに、そのまんまのセリフで俺に問う。

「だ・か・ら! 彼女いるんでしょ!?」

「なんで?」

 なんで!? なんでときたか!!

「いるか、いないか訊いてるの!」

 俺の質問が先でしょ。

「いないよ?」

 心底不思議そうに健太郎が首を傾げる。

「じゃあ……」

 じゃあなんで、俺に……

 そこまで考えて俺は頬が紅潮するのを感じた。

 とてもじゃないが、そんなこと言えない!!

「兄ちゃん?」

 健太郎はそんな俺を窺うように見つめ、そっと俺の額に唇を寄せた。

「兄ちゃん、俺のこと、好きなの?」

 何!?

 何、今さらそんなこと訊くの!?

「好きだよ!!」

 何回も言ったじゃん!!

 ちょっと怒鳴ると健太郎はしゅんとして呟いた。

「だって、兄ちゃんの“好き”は、弟に対するもんだと思ってたし……」

 どうしてそう思うワケ?

「いつもと変わらず、素っ気なかったし……」

 嫌われたくないし。そう言って健太郎は項垂れる。

「好きだよ」

 今度はこの意味、ちゃんと伝わる?

「健太郎、好きだよ」

 だからちゃんと俺を見て。

 おまえだけに向けられる瞳の意味にちゃんと気づいて。

「兄ちゃん……」

 俺を見つめる健太郎の瞳。

 普段は嫌味なくらい男前なのに、こうゆうときは子供みたい。

「好きだよ。兄ちゃん」

 健太郎はそう言ってそっと俺を抱きしめた。

「愛してる……」

 耳元に囁かれる健太郎の言葉。

「愛してるよ……颯……」

 

世界でいちばん君が好き