ぬいぐるみ

 

 彼がいつも抱きしめて眠る、あのクマになれたら―――…

 

 

 幼い頃アトピーだったという彼は、その反動か高校生になったというのに

ぬいぐるみを抱いて眠る。

 何度も洗濯しては縫われているそれは、彼に愛された証のようで。

 

 

「新しいのにすれば?」

 いつものように彼の部屋で寝転がり、ぼろぼろのぬいぐるみを持ち上げて

言う。

「うん……でも、そいつの代わりはいないよ」

 淋しそうにそう言いながら、クマのぬいぐるみを見つめる彼の瞳に無性に

苛立つ。

「じゃあ、俺は?」

「えっ?」

「俺、抱きしめて寝る?」

 そう言って俺は手を広げて首を傾げる。

 冗談にしか聞こえないように。

 だけど本気を混ぜ込んで。

「ヤダ」

 俺の気持ちを知ってか知らずか(もちろんバレないようにしてるんだけれど)

彼は即答する。

「だっておまえデカイもん」

 抱き心地悪そう。そう言って顔を顰める。

 確かに彼よりは成長しているが、その言い方は傷付くぞ。

「でも大きいほうが安心感あるかもね」

 そう言って急に笑顔で抱きついてくるから。

 傷も一瞬で癒えるくらいドキドキしてしまう。

「じゃあ、お試し期間ね。今日はお泊まり決定〜♪」

 楽しそうに微笑う彼にきっと断わることは出来ないだろう。

 どうか理性が保ちますように。

 

ぬいぐるみ