君を抱きしめて

 

「割と悪くないかもね」

 そう言って抱きついてくる彼にドキドキしながらも意識を別のところへやろう

と試みる。

 

 

 例えば俺が彼以外の人に恋をしたら?

 可愛い彼女と手を繋いで歩く。

 俺を見上げ、微笑む彼女にドキドキする自分。

 …………彼女が彼に見えてくる。

 

 じゃあ彼が可愛い女の子とつきあったら?

 …………ムカついてきた。

 いや、理不尽な怒りだとは思うけど、好きな人が自分以外と楽しくしてるの

なんて、想像しただけでも腹が立つ。

 

 

「何怒ってんの?」

 怒りが顔に出ていたのか、彼は不思議そうに俺に顔を覗き込む。

「別に」

 そうは答えるものの不機嫌なのは明らかだ。

 でも、想像のおまえの彼女に嫉妬した、とは言えないだろう?

「俺じゃヤダ?」

 何を勘違いしたのか彼はそう言うと哀しそうに身体を少し離した。

「可愛い女の子でもないし……俺と一緒になんて寝たくないよね……」

 ……死ぬ。

 こんな可愛いこと言われて、勃たないワケないだろ!?

 身体が離れててよかった……ってそんな場合じゃないな。

 なんか誤解してるぞ?

「どうゆう意味?」

「だって……」

 彼は俺を窺うように見つめる。

「だって……ムサイ男抱いて寝るのなんて楽しくないでしょ?」

 ……あの? 自分のどこ見てムサイと思うんですか?

 むしろ俺のがムサイだろ?

「じゃあおまえは嫌なのか?」

 ムサイ男抱いて寝るのなんて楽しくないんだろ?

 俺がそう訊くと、彼は首を左右に振った。

「嫌じゃないよ。誰かにくっついて寝るのって結構気持ちいいし」

「俺だって気持ちいいよ?」

 好きな人抱きしめて眠れるなんて。

 まあ、軽く生殺しっぽいけど。

「じゃあいいじゃん」

 そう言って離れていた身体を抱き寄せる。

「おやすみ」

「……おやすみ」

 

ぬいぐるみ