絶対

 

 好きな人が自分を好きだと言っている。

 ねえ? これって奇跡だと思わない?

 数え切れないほどの人間の中で、俺はあの人を愛した。

 そして、あの人も―――…

 それだけでも充分幸せなはずなのに。

 貪欲な俺は次を求める。

 あの人が俺以外を見ないように。

 あの人が俺以外を愛さないように。

 あの人がずっと俺のそばにいてくれるように………

 あの人に俺の1/10でも独占欲があればいいのに。

 

 

 

 ずっと好きだった人が自分を好きになってくれた。

 そんな奇跡みたいなこと、そう何度も起こらないよね?

 彼が他の誰より僕を好きになってくれたら。

 彼が僕くらい僕を好きになってくれたら。

 彼が僕より僕を好きになってくれたら。

 ……ねえ、2度も奇跡は起こらない?

 

 

 

 

 

「にっくん」

 恋人との久しぶりの逢瀬。

 さすがに手を繋いだりは出来ないが、並んで歩いていたところを背後から

呼ばれ、新田友馬は振り向いた。

「原田」

 振り向いた先にはクラスメイト。

 チッ、いいところで。と思わなくもないが、そんなカオ、愛しい恋人の前で

出来るわけがない。

「にっくんだー。こんなとこで何してんの?」

 おまえこそ何をしてるんだ。

 ジャマなんだよ。わかんねーのか、デート中なんだよ。

 そう思いながらチラッと隣の恋人を見る。

 なるべくこの人には学校での俺は見せたくない。

 ただでさえ年下ってこと気にしてるのに。

「あっ、僕、先行ってるね」

 ゆっくりして。なんて的外れなこと行って歩き出そうとする恋人。

 ねえ、なんで? コレってデートでしょ?

「待って」

 そう言って恋人の腕を掴む。

 吃驚した表情で振り向く恋人。

「ごめんな、原田。今デート中。またな」

「そうかぁ。ごめんなー」

 なんて、意味が理解ってるのか理解ってないのかわからない返事をする

原田を置いて俺は歩き出す。

 もちろん恋人の腕を掴んだまま。

 まだ驚いたままの恋人は少しすると平静を取り戻したのか立ち止まって

俺を見上げる。

「いいの?」

「?」

「あんなこと、言っちゃって」

「あんなこと?」

「……デートだなんて」

「だってホントじゃん」

「でも……」

 悪かったね。俺はすべての人にあなたを自慢したいし、すべての人を牽制

しとかなきゃって思っちゃうくらいあなたにベタ惚れだよ。

 俺のこと好き?

 情けないと思うかもしれないけど、俺はその返事が怖くて訊けない。

 

 ねえ、俺と同じくらい、あなたもちゃんと俺が好き?

 

 

 

「ねえ、僕のこと、好き?」

 

 

 

 今まで訊きたくて訊けなかったことを訊く。

 もちろん答えは“好き”だと思うよ?

 先に惚れたのは僕かもしれないけど、告白してきたのは友馬なんだしさ。

 でも、僕が友馬を好きなくらい、友馬も僕を好きでいてくれるの?

「…………」

 暫しの沈黙。

 どうしてそんなこと訊くの? って感じの友馬。

 今まで訊かなかっただけ。

 本当はずっと気になってたよ。

 僕は友馬より年上で、大人じゃなくちゃって思ってたし。

 ただの友達って感じの彼にだって嫉妬してる。

 自分の知らない友馬を知ってるなんてズルイって。

「僕は、友馬が好きだよ」

 沈黙したままの友馬に告白する。

 

 ねえ、君は?

 

 

 

「俺だって、好きだよ。俺ばっかり好きなんじゃないかって思うくらい」

 

 

 

 なんだ。ホントは智也も不安だったんだ。

 俺のこと、ちゃんと好きなんだ。

 そう思ったら自然に笑顔になってしまう。

「僕のが好きだよ……絶対」

 ちょっと拗ねたように唇を尖らす智也。

「俺のが好きだよ、絶対ね」

 俺はそう言って智也の腕を掴んで歩き出す。

 いくら人通りが少なくてもここは公道。

 とてもじゃないけどキスなんて出来ないから。

 

 

 

「早くいっぱいキスさせて」

 

 

 

 そう言って僕の腕を引っ張る友馬。

 僕だって友馬といっぱいキスしたいし、異存はないよ?

 でもね?

 

 

 

「絶対、僕のが好きだと思う」

 

掌編