風邪薬
恋人が風邪をひいた。 一人暮しの彼のウチに薬があるのかわからないので、自宅にある薬を 持って彼のウチへと向かう。
「大丈夫?」 チャイムを押すのは躊躇われ、合い鍵で扉を開く。 ベッドで眠る彼に近づくと、「まあね」と微笑う。 「薬持ってきたよ」 「ありがと」 「何か食べた?」 いつも通り綺麗に片付けられている部屋。 病気のときにもきちんと片づけするの? 「いや」 起き上がる元気もないらしい。 「おかゆ作るよ」 「うん。ありがと」 そう言って彼はゆっくり瞼を閉じた。
「出来たよ」 眠っている彼を起こすのは忍びないけど、薬を飲んでもらわなければならな いのだからしょうがない。 「ありがと」 寝ぼけ眼で起き上がる彼。 「食べれる?」 「多分」 そう言う彼の口元にレンゲを運ぶ。 いつもなら嫌がられるけど、今は抵抗する体力すらないらしい。 大人しく口を開け、おかゆを食べる。 「も、いい」 半分くらい食べたところで彼が首を振る。 「じゃあ、これ飲んで」 そう言って彼に湯冷ましと薬を手渡す。 「……錠剤がよかった……」 「顆粒のが効きが早いから。我慢して」 「ん……」 静かに頷いて、薬を飲む。 それを見届けて、俺は立ち上がる。 「じゃあ、ゆっくり寝て。帰るから」 「うん。ありがと」 それを聞いて玄関へ向かう俺を彼が呼びとめる。 「何?」 振り返ると手招きをしている彼。 「ん?」 ベッドに近寄り、彼に顔を近づける。
ちゅゥ
「ありがとね」 「どういたしまして」 そして今度こそ彼の部屋を後にした。
その後、俺に風邪が伝染ったことは言うまでもない。 「だって、人に伝染すと治るって言うし」 俺は彼の思惑通り、最高の風邪薬になってしまったらしい。 |