見て。

 

 彼は表情が乏しい。

 何を言っても生返事。

 そう思う俺は卑屈なんだろうか?

 

 

 彼と俺は恋人同士。

 とは言っても、彼に一目惚れした俺が猛烈アタックをし、つきあってもらって

いる。

 だからかもしれない。

 俺だけ好きな気がするのは。

 

 

「ねえ、腹減らない?」

「うん」

「どっか食べに行く?」

「いいよ」

「それとも俺が作ろうか?」

「うん」

 

 彼は本を読みながら、俺を見ようともせず言う。

 

「聞いてるの?」

「うん」

「俺のこと好き?」

「うん」

 

 愛を疑いたくなる……

 もういい。これ以上やっても同じだ。

 俺は彼との会話を諦め、冷蔵庫の中身を物色しはじめる。

 こないだハンバーグ作った残りの肉がある。

 あとは……キャベツ。

 変なとこが欠けてるけど、これくらいの大きさならロールキャベツでも

作ろう。

 前作ったとき、オイシイって言ってくれたし。

 

「オイシイ?」

「うん」

 

 箸を黙々と動かしながら彼は言う。

 やっぱり俺を見ようともせず。

 

「どうした?」

 

 箸を動かすのをやめた俺に今日はじめての彼からの会話。

 

「俺のこと好き?」

「うん」

 

 即答。

 でも、やっぱり目を逸らす。

 

 無理矢理付き合わせちゃってるのかな?

 料理作ったり、都合がいいからつきあってくれるのかな?

 

 ポタリ、と涙が落ちた。

 自分で勝手に想像して、悲しくなって泣くなんて。

 彼にしたら迷惑でしかないのに。

 

「なんで、泣くんだよ?」

 

 本格的に涙の止まらなくなった俺に、困ったような彼の声。

 

「だって……、俺を見てくれないから……」

 

 偽ることも出来ずに答える。

 

「いつも見てるよ?」

「見てないよ。だって、俺とは目を合わさないようにしてる」

 

 それを見てるって言える?

 

「だって、照れるだろ?」

 

 短い沈黙の後、不貞腐れた彼の声。

 見上げればそこには彼の瞳。

 俺の映る、綺麗な瞳―――…

 

「俺のこと、好き?」

「好き」

 

 真摯な瞳で俺を見つめ、はじめての告白。

 

「愛してるよ」

 

 そして優しい彼の唇が降ってくる。

 俺も、の言葉は彼の唇に流れ込んだ。

 

掌編