効く薬

 

「大地といると心臓がおかしい。だからもう会わない」

 長年想い続けてきた幼馴染にそう言われた。

 

 天然だ、天然だ、と思っていたが、ここでボケられるのはどうなんだ?

 わかっているの?

 それは告白と同じこと。

 俺だって、いつも心臓壊れそう。

 

 

 

 あんなこと言われてすぐに会いに行くのも癪なので、あいつの言う通り

しばらく会わないことにした。

 家だって近所だし、学校だって同じなんだから顔さえ見ない日なんてない

だろうし。

 それでもきっと先に根を上げるのは俺のほう。

 3日もしたら会いたくなってしまうだろう。

 そしたら教えてあげようか。

 壊れそうな心臓のわけ。

 

 

 

 

 

「大地のバカァー!!」

 今日は日曜。

 目覚ましもいらない。時間を気にせず気持ちよく寝ていた俺の部屋に侵入

者があったようだ。

 声から察するに朝樹だけど。

 会わない宣言をされたのは昨日。

 幻聴か、ともう一度しっかり眠るため、扉に背を向け布団を被る。

「ぐうぇ!」

 いきなり高校男子に飛び乗られて平気なほど体は丈夫じゃない。

 見上げると俺の腹の上でご立腹らしい朝樹と目が合った。

「よう。心臓病は治ったか?」

 そう言って腹の上から退けようとすると、朝樹は急に俺の首を絞め出した。

 俺、殺されるようなことしたっけ?

「なんで治らないんだよー!!」

 何事かを叫びながら尚もぎゅうぎゅうと絞めつける手を外し、半ば突き落と

すような形で朝樹を退ける。

 加減してくれ。マジ死ぬぞ。

 やっと入ってきた酸素を必死に吸い、突き飛ばしたことによりさらに怒って

いるだろう朝樹に視線を戻す。

「大地のばかぁ……」

 なぜか泣きそうな表情で俺を見上げる朝樹に俺の心臓病も酷くなる。

「どうした?」

 わしゃわしゃと頭を撫で回しながら、しゃがみこんで朝樹に視線を合わせて

やる。

「ばかぁ……」

 心臓あたりを押さえながら、涙声の朝樹に。

 ウルウルした瞳で俺を見る朝樹に。

 マジで心臓が壊れそう。

「大地といると心臓が痛くなるから、だから、もう会わなければいいと思った

のに……。会わなくても痛いんだよぅ……」

 だってそれは俺も同じ。

 いつだって。どこだって。

 朝樹のことを考えるだけで心臓が暴れだす。

「じゃあずっとそばにいよう」

 この病気に効くのはきっとお互いだから。

 いっぱいいっぱいそばにいて。

 いっぱいいっぱいキスをして。

 今までみたいに。今までよりも。

 当たり前のようにそばにいて。

 空気みたいな存在で。

 そしたらきっと死ぬまでに、少しは良くなってるはずだから。

 

掌編