猫の一生

 

 前の飼い主のことは憶えてない。

 ミヤに拾われたとき、オイラは本当に小さかったし。

 憶えているのは抱き上げられたときのミヤの腕の温かさ。

 それがオイラの最初の記憶。

 

 連れて来られたミヤのおうちは大きくて、オイラはそとに出ることが出来な

かった。

 緑の草がいっぱいのおそとに出られたと思ったら、そこもまだミヤのおうち

なんだって。

 世界ってすごく広いんだね。

 オイラがミヤくらい大きくなったら、この大きなおうちも小さく見えるのかな?

 

 このうちにはミヤともうひとり、ショーゴが住んでいる。

 オイラ、ショーゴは苦手。

 だって怖いもん。

 ミヤと遊んでても、ミヤと寝てても。

 オイラがミヤと仲良くするだけですっごく怒ったカオをする。

 オイラだってミヤが大好きなのに。

 

 それからまだある。オイラが苦手なもの。

 オイラ、おふろが大嫌い。

 でもミヤはどうにかしてオイラをおふろに入れようとする。

 ちゃんと毎日きれいにしてるから平気なのに。

 つるつるのミヤの肌。

 大好きだけど、おふろになれば構ってられない。

 逃げようとして、思わず爪が出ちゃうんだ。

 おふろが終わるとショーゴがゴシゴシたおるで拭いてくる。

 これも嫌だけどもっと嫌なのはどらいやぁ。

 ゴーって風が吹いてくるんだよ。

 怖いから逃げようとするんだけど、そうするとショーゴはいつもより低い声で

言う。

「吊るすぞ」

 お外に吊るされてる洗濯物みたいに?

 オイラもあんなふうにされるの?

 怖くなって大人しくするとショーゴは「イイコだな」って撫でてくれた。

 ビショビショになった服を着替えたミヤがおふろから出てくると、ショーゴは

オイラを放り出してミヤを抱きしめる。

 そしてオイラがつけた爪あとを見つけると、すっごく怖いカオでオイラを睨む

んだ。

「まあまあ、ヨウだってわざとじゃないんだから」

 ミヤがそう言ってオイラを庇ってくれるけどショーゴのカオは怒ったまま。

 

「やっ……バカ……! やめろ……!!」

 ショーゴがペロペロ傷跡を舐めてる。

 いつも思わず噛んだ後、ごめんねってペロペロするとミヤはもう大丈夫だよ

って言う。

 だからショーゴもペロペロするのかな?

 じゃあオイラも!! だってオイラのせいだもんね。

 そう思ってミヤに飛びつくと、ショーゴがまた嫌そうなカオをしてオイラを放り

出す。

 それでも諦めずミヤに飛びつくと今度は部屋から追い出されちゃった。

 しょうがないからオイラはいつもの場所で大人しく寝ることにする。

 おそとではオイラの代わりに洗濯物がたくさん吊るされていた。

 

掌編