ずっと一緒の未来
「好きです! 好きです! 好きなんです!! どうか恋人になってください!!」 玄関を開けたらそこには土下座した同居人がいた。 こんな見事な土下座、仕事の出来ない部下だってしたことない。 俺は無言で扉を閉め、男の横を通り過ぎた。 きっと幻覚だ。 俺は疲れているんだ。 じゃなきゃ、今までの共同生活はなんだったんだ。 いとこの友人の弟の友達とかいう限りなく遠い知人を同居させてやってる 優しい俺への嫌がらせか? 「ちょっ! 渡瀬さん! 待ってくださいよ!」 そう言って男が俺の後を追いかけてくる。 「やっぱ男なんて無理ですか!?」 無理なのはおまえだろうよ。 たった1年3ヶ月の付き合いだが、恋愛対象が男だなんて話、一度も聞い たことがない。 そんな素振りだってなかった。 「俺、男だし」 「見ればわかります!」 「くたびれたリーマンだし」 「そんなこと……!」 「おまえはまだ大学生でこれから出会いもたくさんあるだろうし、一時の気の 迷いで男なんか恋人にしてどうするんだ?」 「気の迷いなんかじゃありません!」 「じゃあ、若気の至り? 今、真剣でもそんな言葉で過去にされるなら、こん な話は聞きたくない」 「過去になんか!」 「わかんないだろ?」 「それなら同じじゃないですか! もしかしたらずっと一緒にいられる未来が あるかもしれないのに!」 「そんな“もしかしたら”に縋れるほど俺は若くはないんだ」 俺は溜め息をついてネクタイを緩めた。 「……俺のこと、好きなんですか?」 何かを確信したような男の笑顔に俺は思わず後退り、今までの会話を反 芻する。 「縋ればいいじゃないですか!」 すべてを反芻する前に男が思考を中断した。 「縋ってください! これからどうなるかわかんないのはみんな一緒じゃない ですか!」 俺は一歩一歩近づいてくる男をただ見つめることしか出来ないでいる。 「好きです。渡瀬さんも俺が好きですよね?」 抱きしめられ耳元で囁かれ。 俺より少しだけ低い位置から見つめてくる眼に言い訳は霧散した。 だってずっと好きだった。 はじめから手に入らないと諦めて。 それでもいつかと夢を見て。 疲弊していく心に気持ちが薄れることだけを願った。 「好きでしょう?」 確認のような質問をする自信満々の男の微かに震える指先にどうしようも ない愛しさが込み上げる。 でも俺は意地悪で臆病だから。 「さあ、どうかな?」 もったいぶって首を傾げた。 肩を落とした男は思わず出た俺の微笑に気づかない。 「おまえがホントにずっと一緒にいてくれるなら、きっといつか言ってやるよ」 |