愛してるのその先に
「だって! 愛してるって言ったんだ!!」 「はぁ?」 いきなり訪ねてきた友人が開口一番こう言った。 ウゼェと思っても罪じゃないだろ? 「愛ってなんだよ! 愛って!」 「愛、なんじゃね?」 何が言いたいのかさっぱりわからずテキトーに返す。 「意味わかんねーし!」 「俺はおまえが意味わかんねーし」 とりあえず玄関先じゃ近所迷惑もいいところだと、部屋へ通してやった。 茶でも用意するべきか、それとも酒にしたほうがいいのかとか遣わなくても いい気を遣ってやろうという俺に、奴は仔犬のようにキャンキャンと吠える。 「そんなのいいから、さっさと座れよ! ウゼェなぁ!!」 ウゼェのはおまえだ。 そう思ったが優しい俺は口には出さず、言う通りにしてやる。 「で? 何の話だ?」 「俺のこと愛してるって言うから逃げてきた」 誰が? なんて聞くまでもなく、きっと想い人なんだろう。 「よかったじゃねーか、両思いってことだろ? 晴れて恋人にな―――」 「よくねーし!」 奴はそう俺の言葉を遮って、バン、と勢いよく机を叩く。 「愛してるってなんだよ! そうじゃないだろ!?」 「何がだよ?」 「愛って! 愛してるって! そんな簡単に、口に出すものじゃないって こと!!」 はいはい、なるほど。 んで、『愛してる』って言われてぽかんとして、その後逃げ出してきた、と。 「しょーがねーだろ? 相手いくつだっけ? 19? 18? 援交だぞ? 気 つけろ?」 「18。つーか、まだヤってねーし」 援交ってなんだよ、援助してねーし。 ブツブツ言っている奴を無視し、俺は溜め息をつく。 「はぁ〜、若いもん。そんなもんだろ? 今の若い子って」 「おっさんみたい」 「うっせー。10代のアイシテルなんてのは絵文字のハートマークくらい簡単 だぞ?」 あれはいかんな、マジで。勘違いさせられる。 「俺たちだってそうだったんじゃね? もうあんま憶えてないけど。 “好き→大好き→愛してる”、なんだよ」 だからそう難しく考えるな、とテキトーに慰めて、早々にご帰宅願うことに した。 「だって……愛が最後だろ……?」 「は?」 「“好き→大好き→愛してる”ってそれ以上はないわけで、きっと、すぐ 終わる……!」 「はぁ〜、はいはい」 他人の痴話喧嘩なんかに巻き込まれるこっちの身にもなってくれ。 「なんだよ! 真剣に聞けよ!!」 「だから、つまり、フラれるのが怖いと」 「……!」 「いい歳だし、最後の恋愛ってまで大げさじゃないにしろ、長く付き合いたい とか考えてるわけで」 図星だからって睨むなよ。 「今は好き好きってなってても、5年後にはわからないから」 「……ッ!」 「そんとき棄てられたら、きっともう恋なんて出来ない、とかネガティブなことを 考えてるわけですね」 「うっせーな! 得意げな顔すんじゃねーよ!!」 「まあ、しょうがないんじゃない? 18だろ? 棄てられても文句は言えねー よ?」 俺だって可愛い女子高生とつきあうことになったら、卒業までが限界だって 思うし。 「でもさ、そんなこと言ってたら恋愛なんて出来ないぞ?」 「…………」 「この先、何があるかわかんないのは皆一緒だし。もしかしたら事故って 明日死ぬかもしれねーし?」 そんな不貞腐れた表情されたって可愛くねーんだよ。 18歳のダーリンにしてやれよ。 「だから、今、幸せなほうがいいんじゃない?」 俺の言葉に口を開こうとした奴のケータイがタイミングよく鳴る。 「…………」 「出ねーの? 『アイシテル』男だろ?」 「変なネーミングやめろ」 そう俺に文句を言いつつ、電話に出る。 「はい……いや、……うん……どこ?……いや、……うん……うん……」 なにやら相槌だけで会話を終わらせ、奴ははにかみながら帰っていった。 「じゃあ、また来るし」 清々しい表情しやがって。 「フラれたら来てもいいぞ」 二度と来ないでくれると助かる。 あぁ〜、俺っていい友達じゃね? |