あたしなんか死ねばいい。

 誰も必要ないのなら。

 誰も愛してないのなら。

 死んで誰かに移植され、必要とされるものへと生まれ変わる。

 動物たちでも構わない。

 彼らの血となり、肉となり。

 あたしは誰かに愛される。

 

 

 

 そんなことを考えながら死に場所を求める。

 どんな死に方をすれば、あたしは必要とされるようになる?

 どんな死に方をすれば、あたしは愛されるの?

 

 

 

「ねえ、君。食事に付き合ってくれないかな?」

 急に手を捕られ、見知らぬ男が目の前に。

 援助交際を申し込まれるほどあたしは若くはなく。

 援助交際を申し込むほど男は老けていない。

 この男は何を言っているのだろうか。

 不思議に思って見上げていると。

「独りの食事は味気ないから。話をしよう。それからでも、遅くはないだろう?」

 

 

 

 

 

「さあ、何を食べようか?」

 あたしをファミレスに連れ込み、男はメニューを開いた。

 何も話さないあたしを尻目に、彼はふたりでは食べきれない量の料理を注文する。

「腹が減っているからろくなことを考えないんだよ。腹いっぱいになって。幸せな気持ち

になって。それから、話をしよう」

 混み合う時間じゃないからか、すぐに用意された料理が所狭しとテーブルに並ぶ。

 ハンバーグにエビフライ。グラタン、パスタとサラダにスープ。ご飯もパンも。

 いったい誰が食べるのか。

「いただきます」

 きちんと手を合わせ、綺麗な箸使いで食事する目の前の男を見ながら、急に空腹に

なった気がした。

「イタダキマス」

 小さく呟きフォークを手に取る。

 エビフライに突き刺して口まで運ぶと、やっぱり自分は空腹だったことに気がつい

た。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 そう言ってやっぱりきちんと手を合わせる男を見ながら、

 こんな躯のどこの入るのか、あたしは首を傾げる。

 誰が食べるのかと思った料理は、外見を裏切る彼のおなかに無理なくきっちり納ま

った。

「どう? 腹いっぱいになった?」

 ふう、と溜め息をつきながら食後のコーヒーに手を伸ばし、彼が訊く。

 あたしも同じようにコーヒーを口に運んで小さく頷いた。

「幸せな気分になれた? もう死のうなんて考えない?」

 どうしてこの男にはわかったのだろうか。

 不思議に思い彼を見るが、その表情からは何も読み取ることは出来ない。

「昔、同じ表情をしてる人がいてね」

 何も言わないあたしの心が読めるかのように彼はそう言う。

「どうして死にたいの?」

「別に……」

 別に理由なんてない。

 愛されていないあたしなら。

 必要とされていないあたしなら。

 いないほうがいい。

 他の人に、動物に、生まれ変わってしまえばいい。

「理由がないのに死ぬの?」

「生きる理由もないわ」

 あたしがそう言えば、目の前の男は少し考える素振りをする。

「理由があれば、生きていられる?」

 理由。

 なんて素敵な誘惑。

 その理由があれば、あたしは生きていられる。

 必要とされ、愛されることもあるかもしれない。

「どんな理由をくれるの?」

「ずっと一緒にいて欲しい。僕も独りは淋しいから。僕が君を愛すから、君は僕のため

に生きて欲しい」