「なんだろう? 最近妙に疲れるんだ」

 いきなり押し掛けて来たかと思えば、富嶋とみしまみつるはそう愚痴を零し始めた。

「なんなんだ、いきなり。まあ、唐突なのはいつものことだが。頭の悪い奴は簡潔に物

が述べれなくて困るね」

 家主である吉永よしなが弥月みづきは何をしているのか、見たこともない怪しげな書物から目を外

すことなくそう言い放つ。

「なんだ、その言い方は。それじゃあまるで俺が頭が悪いバカみたいじゃないか」

 こんないい男を摑まえて、と呟きながら富嶋は煙草を取り出し火を点けた。

 それが今までの会話とどんな関係があるのかわからないが、確かに富嶋はいい男

だ。

 自分でもそれはわかっているのだろう。185センチほどもある長身に、何かスポーツ

でもしているのか引き締まった軀。すらっと伸びた長い脚。

 どう見ても安物のジーンズに小汚いTシャツ姿だというのにひどくかっこよく見えてし

まうのは、モデル並みに均整の取れたこの躯のおかげだろう。

 しかしそれが嫌味に聞こえないほど、富嶋は人柄もよかった。

「何の用なんだ? おまえの愚痴に付き合ってやるほど俺は暇じゃないんだ」

 弥月は煩わしそうにそう言いながら、また別の書物に目を遣る。

「何を言っているんだ。何の予定もないひきこもりの友人に会いに来た、優しい俺の心

遣いがわからないのか」

 富嶋はそう言うと煙草を揉み消し、高価そうな革張りのソファに浅く腰を掛け直した。

「それに今回はおまえの能力チカラが必要らしいぞ」

 弥月はその言葉にやっと顔を上げ、富嶋へと眼を向けた。そして大きく溜め息を吐

き、また書物に目を移す。

「その通りだろう? 妙なんだよ。疲れが蓄積していくんだ。年寄りだから、なんて言う

なよ? 俺はまだ25だ」

 富嶋は人懐っこそうな笑みを浮かべ、弥月を見つめた。

 もちろんその笑顔は弥月の視界に入ることなく冷たく跳ね返されたが。

 しかし富嶋にそれを気にする様子はまったくない。

「かれこれ10年になるか? 古いつきあいじゃないか。頼むよ」

 富嶋はそう言って手を合わせ、お願いのポーズを作る。