富嶋と弥月は高校時代からのつきあいだ。

 人当たりがよく、人気者で友人の多い富嶋だったが、性格なのか、人や物に執着心

がない。その富嶋がはじめて執着したのが弥月だった。

 はじめて弥月を見たとき、富嶋は息を呑んだ。

 この世にこんな美しい生き物がいるのか、と。

 透けるような白い肌。風が吹けばサラサラと音がしそうな漆黒の髪。形のいい眉と

耳に薄い唇。射竦めるような強い茶色の眼。

 170センチに少し足らないほどの身長に華奢な軀(これについては富嶋は騙された

と思っている。華奢そうに見える軀、というのが正しい。弥月は意外に筋肉質だったの

だ)。

 とにかくどんなに(性格が)美しい人間なんだろうと思ったら、これまた騙された、とい

う感じだった。

 いつも冷たく見下すような態度、視線。弥月は他人を寄せ付けず、いつも独りでい

た。これは今でも変わりないようで、仕事をしているのかすらわからない、ひきこもりの

ような生活をしている。

 ときどき富嶋にはわからない何かをしているようなので、もしかしたら働いているの

かもしれないが、いつ来ても在宅している弥月を見ていると違うような気もしてくる。

 そういえば、当時、こんな噂が立ったことがあった。

 

 吉永弥月はどこぞの資産家の妾腹らしい。

 

 今の生活を見れば、その噂も頷けるような気がする。

 とにかく、そんな弥月に何故興味を持ったのかわからないが、誰もがまるでいない

かのように弥月を扱うなか、富嶋だけは違った。

 周りには面倒見のよい富嶋がクラスに馴染めない弥月の手助けをしているように見

えていたようだが、実際には弥月の迷惑を顧みず、富嶋が弥月を果敢にも構い倒して

いたに過ぎない。

 それがどんな結果を招いたかは、現在の状況を見てもらえればわかると思うが、富

嶋は(半ば強引に)弥月の友人の座を射止めたのだ。