初恋
生まれて16年と4ヶ月。 ぶっちゃけて言えば、これは初恋だ。 あんまり大きな声で言えないのは、 相手が後輩で、男――つまり同性――だからだ……
初恋が男なんて問題あり?? 俺ってホモなんかな? でも女が嫌いってワケじゃないし、女の子は可愛いと思う。 ……ってコレ言い訳っぽい? 違う、違う! 言い訳じゃないって!! 初恋ってのだって、皆みたいに「幼稚園のときの○○ちゃんゥ」っての抜き にしてだもん。 なんつーの? 心臓鷲掴みにされたみたいにすべてが奪われて、ココロもカラダも欲しいと 思ったのが初めてって意味での『初恋』なワケよ。
だってアイツは可愛い。 あんまりデカくない俺より背が低いし。 ちなみに男としては180は欲しかった俺の身長は、悲しくも高校2年に して175で止まったらしい……。 でもアイツは171.9だって言ってたし。 気にしてるのか“9”が強調されてたけど。 それに「吉川先輩!」ってまるで千切れんばかりに尻尾を振る仔犬みたい に俺に懐いてくる姿なんて可愛すぎて、ギュッてしてどっかに連れ去りたい とか思っちゃうほどだし、少しだけ上目遣いに俺を見る綺麗な瞳とか、幼い 子供のような笑顔とか。 好きだと意識すると止まらなくなる。 アイツのちょっとした仕種に眼が、心が奪われる。 どんなアイツもすべてが好きだと思ってしまう。
俺たちが出逢ったのは、風紀委員などという面倒臭い仕事を俺が押し付け られたことに始まる。 このときばかりはあのバカな悪友が天使のように思えたよ。いや、この 場合キューピッドか? まあ、そんなことはさておき。 はじめは気にも留めてなかった。 新一年生の男になんて。 ウチの学校はれっきとした共学校で、むしろ気に留めるべきは可愛い女の 子だろう? でも残念なことに、班分けでは男ばかりの班になってしまって。
ウチの学校は委員会や掃除なんかが縦割りで(小学生かよって感じだけ ど)委員会はクラスごとに3人で(1―1、2―1、3―1で一班ってな具合に) 組むことになってて、俺の班は、1年が渡辺陸、2年が俺・吉川渚、3年が 委員長の楠大介先輩。 楠先輩は風紀委員長なんてのをやってるわりに軽くて、いっつも「めんどい からお願い」なんて素直なこと言って俺たちに仕事を押し付けてた。 委員会自体だって副委員長が仕切ってたし。 なのになんであの人が? って疑問はすぐに解けた。 「めんどい」とか言うわりに面倒見がいいし、いざってときは自分で動く。 考えてみれば副委員長も“参謀”って感じだし。 まあ、そんなこんなで、結局俺たちの班の仕事は俺と渡辺のふたりでやる ことになったワケ。 したら、仲良くなるのが普通でしょ? それが恋まで発展するのはヤバイような気もするけどね。 そりゃ学年違うし? アイツは敬語だし? 友達って感じでもないけどさ。 でも委員会以外でも喋ったりするようになって、いろんなアイツを知って 「好きだなぁ」と思ったら、もう手遅れっしょ? だって友情じゃないってハッキリわかる。 アイツに感じるのは「恋」だって断言できる。 誰にも言うつもりもないけどね。
「吉川先輩!」 いつも思う。 コイツが犬だったら絶対に尻尾が千切れそうなくらい動いてるって。 「終わったか?」 「はい。あとはここだけです」 渡辺が笑顔で頷く。 うん。今日も可愛い。 つられて俺も笑顔になる。 例によって例のごとく、委員長直々に仕事を押し付けられた俺たち。 放課後残ってマジメに仕事している。 ちなみに本日の仕事は掃除道具の点検。 これって風紀の仕事?? 美化委員の仕事じゃねえ? まあ、別にいいけどね。 渡辺とふたりっきりになれるし。
「さあ、帰るか!」 職員室に点検用紙を提出して、昇降口へ向かう。 「正門な。遅かったほうがジュース奢り!」 俺はそう言って廊下を走り出す。 昼間だったら「廊下を走るな!」とか怒られるんだけど、下校時刻も近づい ている今じゃ学校にいる奴なんてほとんどいない。 「ちょっ…ズルイですよ!」 渡辺も慌てて走り出す。 学年が違う俺たちは、もちろん昇降口も違うわけで。 俺のほうが正門に近いんだ。 で、いつも俺が待っててやるワケ。 だからこの賭けは絶対俺が勝つってこと。 「ウソ、ウソ。待っててやるから早く来いな」 なるべく一緒にいたいから。 その言葉は呑み込んで、渡辺に笑いかける。
「おっそーい!!」 いくら昇降口が違うからってそんなに離れているわけじゃない。 俺が正門に来てもう10分も経つ。 何かあったのかな? いくらなんでも、一緒に帰りたくないってことはないと、思う。 今までだって一緒に帰ってたわけだし…… そこまで嫌われてはない、と思うし…… 「吉川先輩〜!」 どんどんマイナスに向かいそうな思考は渡辺の声によって遮られた。 「すみません。ちょっと委員長に捕まっちゃって」 楠先輩? なんで? 思いっきり顔に出てたらしい俺に、微笑した渡辺が答えをくれた。 「これ」 渡辺はそう言って俺に紙切れを差し出す。 「遊園地のチケット。くれたんですよ」 「なんで?」 なんでそんなもの先輩が渡辺に? 「お駄賃じゃないです?」 そう言って渡辺は子供のように笑う。 「いつも俺たちふたりで仕事してるから」 「ふ〜ん」 ラッキーゥ タダで遊べんじゃん。 ……って? 仕事してんのは、俺たちふたりで……? お駄賃ってことは…… 「じゃあ、いつにしましょうか?」 つまり……? 「先輩、今週の日曜とかヒマです?」 俺と…… 「待ち合わせは駅でいいですよね?」 渡辺の…… 「楽しみですね〜」 ふたりで……? 「う…うん……」 叫び出したかったけど、そんな不審行動をするほど俺も子供じゃない。
「まあ、なんて晴天。デート日和だわゥ」 なんて言ってる場合じゃないんだよ!! だってだって!! 俺は渡辺とデート(希望)できるなんてすっげー幸せだけど、多分アイツに 他意はない。 楠先輩から『お駄賃』として貰ったチケットだから、俺とふたりで出かけなき ゃいけないと思ってるだけで。 なんか、切なくない? 俺だけ空回り? 「せんぱーい!!」 駅前で手を振る愛しい人発見。 なんで? 俺、10分も前に来てんのに。 「ごめん。遅れた?」 そう言って時計を見る。 いや、やっぱ10分前だ。 「いえ、俺が早く来すぎちゃって」 そう言って照れたように笑う渡辺。 なんかソレって期待しちゃうんだけど。 でも多分、遊園地が楽しみ、とかそんなオチなんだよね。 「じゃあ、行きましょうか」 「あっ、うん」
「先輩! 次、アレ!!」 元気だな〜… たった1歳。っていうか、3ヶ月。 なんでこんなに若さ溢れてんの? 「早く! 早く!!」 楽しそうな渡辺に連れられてお化け屋敷へ向かう。 確かに俺も楽しみだった。 いや、今現在も楽しい。 渡辺と遊園地デート(希望)だし。 でも歳を感じる程度には疲れてるワケ。 って俺の体力の問題? 「先輩。こういうの平気な人?」 渡辺がお化け屋敷を指して言う。 「うん。割と」 ふ〜ん、と呟いて渡辺は列(と言っても2、3組なんだけど)の最後尾に つく。 「なに? おまえダメな人?」 「いいえ」 強がりには聞こえない。 コイツも平気なんだ。 な〜んだ。 『きゃっ! 怖い!!(彼氏にしがみつく)』 とかいうシチュエーションにはならんのか。 …………!! 違う、違う!! 俺たちは恋人じゃなし、デートでもない。 言ってて哀しくなるけど、コレはあくまで『お駄賃』だし…… 「先輩?」 渡辺の声にはっとなる。 「どうかしたんですか?」 「別に」 慌てて首を横に振る。 俺、今かなり怪しい人だったよな。 「そうですか?」 「うん」 暗くなるのは今じゃなくていい。 だってさ、せっかく休みに渡辺と遊べるんだもん。 「ねえ、先輩。笑って?」 言われて、渡辺を振り返る。
パシャ
いつのまに用意したのか間抜けな顔を写真に撮られた。 「先輩、楽しくないの?」 渡辺はレンズ越しにそう言ってまた俺を撮る。 「楽しいよ」 おまえと一緒に遊べるから。 「笑ってるだろ?」 「ええ」 頷いてもう一度撮られる。 「俺にも撮らせろよ」 俺はそう言って手を差し出す。 「ざんねーん。時間切れ」 渡辺はそう言って、前方を指差した。 ちょうど俺たちの順番になり、従業員が中へ促す。 「さ、行きましょ」 そう言ってカメラをしまう渡辺を恨めしげに見つめ、お化け屋敷へと入った。
「先輩、手つなぎましょうか?」 入ってすぐ、渡辺は笑いながら手を差し出してきた。 「なんだ? 怖いのかよ?」 俺は冗談っぽく返してはいたが、内心かなり焦っていた。 いくら暗いからって男ふたりで手なんてつないだら怪しくね? しかも別にふたりとも怖がってないんだし。 渡辺がどうゆうつもりなのかわかんねえ。 でも本気じゃないんだろうし、マジメに答えたりしたら怪しいよな? ああ〜!! 手に汗が〜!! 冗談でも今、手なんかつないだらぜってーバレる。 なんて俺が心臓バクバクさせながら、必死に頭を回転させていると、 目の前にあった檻に急に人が出現した。 「わあ!!」 あまりに突然の出来事で、俺は隣にいた渡辺の腕にしがみついた。 うー、と低い声で唸りながらガタガタと檻を揺らす音にしがみついていた 腕の力が強くなる。 言っとくけど、お化け屋敷なんか怖くないからな!! ただ突然でびっくりしただけだ!! 「先輩、意外と怖がりなんですね」 渡辺は俺がしがみついてるのとは逆の手で口元を隠し、苦笑している。 「違う! 驚いただけだ」 俺はそう言ってしがみついていた渡辺の腕を離す。 「な〜んだ。残念」 くっそー! なんか馬鹿にされてる!! まだ苦笑している渡辺を置いて、俺は先へと進むことにした。 その後は本当にたいしたことなくて、少し前でキャーっていう女の子の声が 聞こえただけだった。 ちっとも怖くなかったし、やっぱりさっきのはびっくりしただけだってことを 証明できた。
「面白かったですね」 なんだか意地の悪い微笑を浮かべて渡辺がそう言う。 「そうだな」 しがみついたことに対する弁解をすると、なんだかどんどんハマっていきそ うだったからやめた。 「また来ましょうね」 そう言われて振り返る。 渡辺はいつも通りのニコニコした表情で俺を見ている。 また空回りな俺。 渡辺はきっと、「遊園地が楽しかった」から「また来たい」ってことを言って いるだけ。 でも俺は「渡辺との遊園地デート(希望)が楽しかった」から「またふたりで 来たい」と思ってる。 もしかして、俺って結構可哀想なヤツ? 「先輩。次、何にします?」 渡辺がそう言いながら、地図を取り出す。 「あー!!」 「なんですか!?」 突然叫び出した俺に、渡辺は驚いて顔を上げる。 「カメラ!!」 忘れてた。さっき変な顔の写真撮られてたの!! 「俺にも写真撮らせろよな!」 そう言って手を差し出す。 「何が撮りたいんですか?」 「おまえ」 言ってからヤバイって気づいた。 なんかソレって俺が渡辺の写真欲しいみたいじゃねえ? いや、実際欲しいんだけどさ。 「さっき、俺、変な顔撮られたし!」 とっさに出た言い訳をどう思ったのか、渡辺は、 「わかりました」 ってカバンからカメラを取り出し、俺に手渡した。 なんつーか、あんな宣言してからだと撮りにくくねえ? そう思ったけど、渡辺はそんなこと気にするでもなく、地図を見ている。 「あと乗ってないのって、メリーゴーランドとか観覧車くらいですよ?」
パシャ
地図を見ていた渡辺が顔を上げて俺を見る。 その瞬間を逃さずに写真を撮ってやった。 「あー! 俺、今、変な顔してたでしょ?」 「いいじゃん。俺だってさっき変な顔撮られたんだもん」 俺はそう言ってカメラ越しに渡辺を覗く。 「で、何乗りたいですか?」 観覧車、って言いたかったけど、男同士でどうよ? まあ、男ふたりでメリーゴーランドとかのが気味悪いけど。 「おまえは?」 「観覧車!」 決めかねた俺が渡辺に選択権を譲るとソッコーで答えが返ってきた。 そして、高いトコ好きなんですよね〜。なんてとびっきりの笑顔を俺に 向ける。
パシャ
その笑顔に俺は思わずシャッターをきっていた。 「行きましょ」 渡辺はそう言って俺に手を差し出す。 「えっ?」 「カメラ」 男同士で手つなぐのかよ!? って焦ったけど違うらしい。 勘違いにひとり赤面して、渡辺にカメラを返した。
「なあ、俺ら、浮いてねえ?」 観覧車の列に並び、思わず渡辺を見る。 「そうですねえ」 頷いたものの大して気にした風でもない渡辺。 周りにはカップルだらけ。 ちゅーとかしちゃってる奴らまでいる。 いいな〜…ラブラブで。 「時間が時間ですからね」 そう、ちょうど日が落ちはじめてロマンチックな感じ。 閉園も近いし、コレをラストにしようってカップルが結構いるらしい。 皆考えることは一緒だな。 「先輩、次ですよ」 そう言われ、俺は前に進んだ渡辺に並んだ。 「どうぞ。楽しんでいってらっしゃい」 そう言いならが係員が観覧車の扉を開く。 喜び勇んで乗り込む渡辺に続いて俺も乗り込んだ。 「小さい遊園地のわりに、なかなか大きい観覧車ですね」 そう言われればそうかも。 「10分くらい? 時間。普通ってどのくらいなんだろ?」 「さあ? 5分とか?」 結局、わからない者同士の会話で答えが見つかるはずもなく、わから ない、ということで終了した。 「先輩! いちばん上ですよ」 渡辺がわくわくと窓を見下ろして言う。 「結構高いな」 「そっち、座ってもいいですか?」 下界を見下ろしていた俺に、同じく窓にくぎづけだったはずの渡辺がそう 訊く。 「はぁ? 高いトコ好きだったんじゃないのか?」 怖いのかよ? なんて動揺しつつ軽口を叩く。 そりゃあ別に、男ふたり並んで座ったくらいで揺れるほど傾いたりする わけじゃないけど。 でも降りるときにおかしくねえ? 仲のいい友達、って見られるのかな? 俺が意識しすぎ? 「いえ、別に。いいです……」 色々考えていた俺に、渡辺は何を思ったのかそう言うと黙り込んだ。 その態度に俺も黙り込むしかなくて、結局観覧車を降りるまで沈黙が 続いた。
「帰りましょうか」 観覧車を降りると渡辺はそう言って、門へ向かった。 「どうかしたのか? 楽しくなかった?」 渡辺の態度が気になってそう訊く。 「いえ。楽しかったですよ」 そう言って俺に向けられたいつもの笑顔。 「そう? じゃあ、いいけど」 さっきの態度が気にならないわけじゃない。 でもなんか、訊いちゃいけない気がして俺は黙って渡辺に従った。
日曜の夕方の電車。 思いのほか空いていたけど、俺と渡辺は電車の中央にある長いすの 隅っこに並んで腰を掛けた。 「楽しかったな」 俺がそう言うと渡辺は笑顔で頷く。 さっきのは、やっぱ俺の気にしすぎだったのかな? 「また来たいですね」 笑顔のまま問いかける渡辺に俺も笑顔で頷いた。 そのままいつも通り話をし、やっぱさっきのは気のせいだ、と思った頃、 電車が目的地へ到着した。 「じゃあ、俺、ここだから」 そう言って立ち上がり、扉の前に立つ。 「先輩……」 「何?」 呼びかけられ、振り返る。 電車が、停まった。 「どうした?」 鳴り始めた警笛。 何も言わない渡辺。 「どうしたんだよ?」 電車を降りて、渡辺を振り返る。 警笛が、鳴り止んだ。 そして、扉が閉まる直前、渡辺が電車を降りる。 「何で降りてんの? おまえ、ココじゃないじゃん」 渡辺のウチはあと二駅先。まあ自転車で15分くらいなんだけど。 「何? なんか用事あんの?」 ずっと黙ったまま俯いている渡辺。 「電車待つ? 次は……20分後だけど」 時刻表を覗き込んで渡辺に問う。 田舎だな……。しかも無人駅だからあんまり電車が来ないし。 「俺ん家来る?」 歩いて5分くらいのところにある俺の家。 まあ家族とかいるし、ふたりっきりになれるわけじゃないけど。
「俺、先輩が好きです」 突然の言葉に俺は笑顔のまま表情が固まる。 コイツ何て言った?? 渡辺は真剣な表情で俺を見つめてる。 いつもの仔犬みたいな渡辺じゃない。 「男同士で、こんなの、変、だってわかってます」 何も言わない俺をどう思ったのか、渡辺はしどろもどろになりながら言い訳 をはじめた。 「先輩は女じゃなくて……もちろん女の代わりとか思ってないし、先輩は先 輩だから好きなんだし……でも女みたいに好き、ってことだし……」 何言ってるかわかんねえけど。と言って渡辺は頭を掻いて俯いた。 「気味悪がられるだろうと思ってたし、別に恋人になって欲しいとか言わねえ けど、でももう我慢できなくて。好きすぎてどうしていいかわかんなくなって」 一気にまくしたてる渡辺に俺は口を挟むタイミングを見逃している。 「どうしてもそれだけ伝えたくて! すみませんでした!!」 渡辺は勢いよく頭を下げると俺に背を向け、走り出そうとしている。 「ちょっ! 俺のこと好きなんじゃねえの!? 恋人になりたくないワケ!?」 走り出そうとする渡辺を大声で引き留める。 俺だってずっと好きだったのに。 「えっ?」 渡辺が戸惑ったように振り返る。 「そりゃ……恋人に、なりたいですけど……」 俺の顔色を窺いながら呟くように言う。 「じゃあそう言えよ! なんで自分の言いたいことだけ言って、俺の気持ちは 聞かないんだよ!?」 「……先輩……?」 渡辺が近づいてくる。 「それってどういうこと?」 その顔があまりに自信満々で。 「先輩も俺のこと好きなんでしょ?」 って問いではなく確認だから。 「おまえの告白が途中だろ!?」 きっと真っ赤だろう顔をぷいっと背ける。 渡辺はふっと微笑って俺を見つめた。 「先輩。俺、先輩が好きです。俺の恋人になってくれる?」 「いいよ」 ぶっきらぼうに答えて歩き出す。 こんな表情、コイツに見せるわけにはいかない。 「せんぱーい! 俺のこと好きなんでしょ〜?」 うしろで恥ずかしいことを言ってる男は無視をする。 俺が好きだなんて言ったらアイツは絶対調子に乗るから。 しばらくは言ってやんない「好きだ」なんて。 |