理由なんてない
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「西中出身、牧原冬也。まだまだ成長期!」

 170に少し足りない身長と、高校生とは思えない(入学式当日に高校生

らしくても嫌だが)華奢な躰に似合わない大きな声で彼は言った。

 色素の薄い茶色い髪が彼の動きに合わせて踊る。

 大きな瞳を期待で輝かせ、眩しい笑顔で俺を見た。

 いや、実際はこっちを見ただけで俺を見たわけではないのだろうが。

 その瞬間、俺は彼に惹かれていたのかもしれない。

 

 

 いつも笑顔の彼が気に入らない。

 というよりも、その笑顔が俺に向けられたものじゃないことが。

 そんなことで苛々している自分に気づき、驚く。

 俺が他人を求めるなんて―――?

 

 

 

 

 

「俺、牧原冬也。はじめまして、相川奈津くん」

 彼はそう言って俺に向かって右手を差し出した。

 俺はと言えば、あまりに突然のことで、差し出された右手が握手を求めて

いるということさえ認識できなかった。

「俺、友達になりたいんだけど?」

 彼は未だ右手を出し、首を少し傾け、俺の様子を窺っているようだ。

「はじめまして」

 俺はそんな間抜けなことを言って彼の右手に自分のそれを重ねる。

「うん」

 彼はそんな俺の間抜けな返答に満足そうに頷いたあと、

「で、友達になってくれる?」

 とさっきと同じ質問をした。

 友達というのは、こういう風になるものなのか?

 不思議には思ったが、敢えて口には出さず、俺は頷いた。

「よかった。俺、ずっと相川と喋ってみたかったんだ」

 彼はそう言って、俺に邪気のない笑顔を向けた。

 そのときから俺は彼に捕まっていたんだと思う。

 

理由なんてない  裏小説  2